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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第280回2017/10/15

 徳次が今までとは違う何かをやるという予兆は見えていた。第十章「怪猫」の前半辺りから、徳次の動きが今までは違っていた。234回感想 しかし、喜久雄を殴り、叱りつけるとは!

 彰子の登場は、この女が重要な役割を持つことを予想させた。(250回)しかし、その彰子が喜久雄の世話をやり通すとは!
 歌舞伎役者には、役者を支える女房の存在が不可欠なことと、市駒は役者の女房にはならない233回感想ことに、気づいていた。だが、それを、女子大生でお嬢さん育ちのように描かれていた彰子がやるとは、いひょうを突く筋立てだ。


 (略)本来の喜久雄が持つ主役としてのカリスマが溢(あふ)れ出した(略)

 これが、喜久雄の魅力なのだ。そして、この喜久雄本来の「カリスマ」は、大御所の歌舞伎役者と俊介にとっては、脅威なのではないか。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第34回 2017/9/8 第7話 権現様の弟、旅に出る③

あらすじ
 
神楽を舞い終わって、姫路と遠野の試合を観ていた神楽のメンバーたちは、次第に遠野を応援し始める。遠野は先制されるが、終盤に得点して引き分けに持ち込んで試合を終える。遠野が負けると思っていた司朗や壮介は、引き分けなのに遠野が勝ったような感覚を味わう。
 この試合をきっかけに、壮介たちは地元の試合だけでなく、遠野の遠征にもついていくようになる。遠野FCは、さんざん点を取られたあと後半に追いつく展開をするチームだ。司朗は、その追いつく感覚が忘れられないと言う。壮介は、司朗ほど魅了されてはいなかったが、サッカーを観ていると、職場でのうっとうしいことを忘れることができた。
 ところが、職場では、西島さんの壮介への当たりは以前にも増してきつくなっている。壮介が遠野FCを応援していることを知った西島さんは、得意先での話題で、壮介の遠野FC応援のことを嘲るようになる。

感想
 
サッカーという競技にそれほど興味がないのに、地元のチームを応援するようになる経過がよく分かる。
 生まれ故郷といっても、そこから出ようと思えば、それほど大変なことではない。むしろ、経済的な発展が見込めない地元の場合は、そこに残る方が、むずかしい。そういう時だからこそ、地元に残っている人や戻って来た人は、何かのきっかけがあれば、地元のサッカーチームを応援したくなる気持ちが4わくのであろう。
 生まれ故郷のどこに愛着を持つか、そして、その気持ちを持ち続けるか、現代ではむずかしいことだと思う。
 要するに、働く年代の人々は、地元であるかどうかに関係なく、経済面で発展する地域へ集中するのが、今の時代なのだと思う。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第279回2017/10/14

その一
 意外な方向へ進んだ。喜久雄が歌舞伎以外で新境地を開くとしたら、テレビか映画だろうと思っていた。
 吾妻千五郎の反応も意外だった。彰子と喜久雄のことを隠し通すか、彰子の言いなりになるかだと思っていた。

その二
 俊介と喜久雄の間に今までにないライバル心を感じる。単に好敵手というだけでなく、どうしても勝ち負けの決着をつけなければならない対戦者同士になっている。
 同じ演目の同じ役で、俊介と喜久雄は、芸の優劣、人気のあるなしを争うことになった。

その三
 丹波屋に戻り、我が子一豊に初舞台を踏ませた俊介なのだが、なんとなく不安な影を感じる。彰子と共に暮らし、役者廃業寸前を救われた喜久雄なのだが、望むような役者の道を進んでいる感じがしない。

 代役と襲名を、喜久雄が手にした。春江と復帰後の舞台の評判を、俊介が手にした。そして、「八重垣姫」の役作りで、二人の間にはっきりとした勝ち負けがつくのだろうか?

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第278回2017/10/13

その一
 俊介と喜久雄は、その芸の土台となる稽古は共通であった。なんと言っても、二人の師匠は二代目半二郎であった。
 俊介が万菊に、喜久雄が歌舞伎以外の場で、それぞれ新しいものを身に付けたとしても、二人の芸の土台は同じだろうと思う。

その二
 端役にしかつけなかったが、喜久雄の芸に、万菊も鶴若も得体の知れないものを感じていたように思う。
 梅木社長は、他の歌舞伎役者にはない魅力を喜久雄が持っていることに気づいていた。鶴若も、それを感じ、喜久雄がその魅力を増すことに、怖れさえ感じていたのではないか。(182回) 182回感想
 そして、喜久雄自身も、自分の魅力に気づいていなかったと思う。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第277回2017/10/12

 お勢は、「しょぼくれたお爺ちゃん」言っていた。
 春江は、苛立ちを隠さなかった。竹野は心配そうにしていた。
 
 人は見かけで判断すべきではないのでしょうが、これまで幸子が生きてきた世界では接点のなかったタイプの老人でございます。(269回)

 たとえ、旅回りの一座にいた者でも芸人なら接点はある。また、辻村のようなタイプの人とも接点はある。幸子と接点のなかったタイプの男、謎だ。

 今回でも、松野はいかにも貧相な外見ながら、いつもニコニコしている老人と描かれている。そして、俊介はそれとなくこの老人に気を遣っている。
 これだけ念入りにみすぼらしい様子の老人と書かれると、かえって、松野に外見とは真逆の本性や過去を疑ってしまう。

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