本屋のとなりは写真館

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

 マツは、喜久雄の実母千代子を懸命に世話した。あらすじ 第二章
 幸子は、俊介が姿を隠しているのに、喜久雄の子を生む市駒の世話をした。あらすじ 第七章
  
 マツは、恨まれてもしかたのない千代子に尽くした。幸子は、憎しみを感じている喜久雄のために市駒の世話をして、喜久雄の子が無事に生まれるように尽力した。
 この二人に重なるものを感じる。
 
 前回の感想では、幸子の直感が当たっていると思ったが、別の考えも出て来る。
 松野なる爺さんは、春江だけにかかわる人物かもしれない。

 俊介と春江の家出の間のことは、水上温泉のホテルで働いていたことと、旅回りの一座にいたことしか出て来ていない。
 それ以上に、小説最初からの登場人物である春江の素性が、今まで全く語られていない。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第269回2017/10/3

 春江は動揺を隠す。
 幸子は嫌な予感を持つ。
 お勢は「なんや、しょぼくれたお爺(じい)ちゃんですわ」と囁く。
 俊介が戻ってくれて、跡取りの一豊ができ、新宗教から抜け出した。東京で、春江とともに、丹波屋の女将として動き出し、俊介復帰の舞台も評判の内に幕を開けたかに見えた。そんな幸子に暗雲が立ち込めたように感じる。

「せや、二人が家出しとったあいだに知り合(お)うた人やわ」

 この幸子の直感は当たっているに違いない。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第268回2017/10/2

 いったい、俊介は、発見されたことをどう受け取っているのか。
 竹野に感謝している様子はない。かと言って、竹野が画策している復活劇を嫌がっている様子もない。だいたい、竹野が企てていることを知ってはいないのかもしれない。
 万菊が現れた時は、驚いただろうし、万菊には感謝しているだろう。そして、万菊に稽古をつけてもらったことを喜んでいるだろう。だが、万菊との共演で自分の願いが叶ったとは思っていないと感じる。

 歌舞伎の舞台に、願ってもないほどの抜擢で復帰した俊介に、喜びと意欲が感じられない。それどころか、今の俊介に次のような疑いを持ってしまう。
 舞台に復帰する前に、喜久雄に話すべき何かがあるのに、それを話せないでいるのではないか。

 俊介が春江に言っていた客は、竹野ではなかったようだ。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第32回2017/8/25 第7話 権現様の弟、旅に出る①

あらすじ
 盛岡の支社にいる青木壮介は、東京の本社に戻る塚越君の送別会の幹事をしている。この送別会の翌々日に、壮介は休みを取って、姫路のサッカースタジアムに行くことになっている。
 姫路では、サッカースタジアムで神楽をやってほしいと依頼があり、幼なじみの司朗に誘われて壮介も神楽を舞うことになっている。
 壮介の祖父は、遠野に伝わっている神楽の権現舞が得意だった。そのつながりもあり、壮介は小さい頃、司朗と一緒に神楽をやっていた。大学に行く頃には、神楽もやめていたし、東京で就職して故郷の遠野とは縁が薄くなっていた。
 しかし、東日本大震災で状況が変わり、壮介は異動願いを出して、岩手に戻っていた。盛岡に戻ってからは、週末は母親の実家のある遠野に帰るので、司朗など昔の仲間ともつるむようになり、神楽の団体とも関わるようになる。
 遠野の地元チーム遠野FCと姫路FCが対戦する折りに、遠野の神楽の団体にイベントで神楽を舞ってほしいとの依頼が来たのだった。壮介は、遠野FCに興味はないし、神楽もしばらく舞ったことがなかった。だが、主たる舞い手が急に行けなくなったこともあって、壮介に話が回ってきていた。

感想
 
今回の第7話は、最近よく取り上げられる問題が設定されている。震災後に人口が減少する地元をどうするかということ。若い後継者不足で、地方の伝承文化が消滅しそうなこと。それに、東京本社から一時的に転勤して来る社員と、地方支社に長くいる社員の人間関係のこと。
 主人公の壮介は、震災で被害を受けた地元に戻り、地方支社に腰を据えている。そして、子どものころやっていた神楽にも関わりを持つようになった。
 壮介にとって、仕事でもプライベートでも、難しいことを引き受けているように思えるが、どうやっていくのだろうか。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第267回2017/10/1

 同じ藤川教授が、喜久雄と俊介の『娘道成寺』を観た時には、次のように言っていた。
「(略)一瞬、自分が江戸時代にいるのかと錯覚したくらいですよ」(109回)109回感想
 さらに、喜久雄と俊介の南座出演が決まった時には、NHKの全国放送で次のように言った。
「スタア誕生の瞬間というものを目の当たりにしたければ、今月の南座にいらっしゃればよいのですよ。」(120回)120回感想

 それに比べると、今回の劇評は、ずいぶんと違う。
(略)あの万菊に食らいついて舞台に立っている半弥が、次世代を担う歌舞伎役者たちの一群から、頭一つ抜けたことは間違いがない。(266回)

 
俊介が言っている『こんなもん褒められたうちに入るかいな』の言葉通りだと思う。

このページのトップヘ