新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第32回2018/7/3 朝日新聞

 同じ大学を卒業して、互いの結婚式に招き招かれた間柄でも、職種が違うとだんだん疎遠になる。佐山と紺野と洋一郎もそうだったのであろう。その三人が退職が近づいた年齢になって、顔を合わせるのは、「よしお基金」のせいだといえる。
 三人は、職種は違うが、それぞれの職業で一定の成果をあげていて、現在も将来も生活の設計はあるようにみえる。
 紺野の両親の事情について描かれていた。佐山の両親の事情は描かれていないし、洋一郎についても別れた父のことしか描かれていない。三人の年齢からみて、それぞれの親は七十歳を超えて、高齢者の抱える課題が、浮かび上がってくるころだ。

 この三人が「新人類」なら、私は、それをからかった先輩社員の年頃だ。私にも、「近頃の連中は‥‥」と言った覚えがある。だが、今となっては、その後の若い世代に比べるなら、「新人類」はごくわかりやすい世代だった。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第31回2018/7/2 朝日新聞

 同じ年頃の子を持つ母親同士の共感は、父親同士とは違うのだと改めて思う。

 一人息子を喪って、佐山夫妻の生活がすべて変わってしまったことがわかる。そうなるのも無理からぬことだと思う。だが、世の中の子を喪った夫婦が、皆佐山夫妻のようになるのだろうか?そして、そうなることが社会にとって自然なことなのだろうか?
 
 人はいつかは死ぬ。死に順番はつけられないので、親子の逆転もある。これが、現実だ。


 パソコンのデータを消去するように、芳雄くんのすべてが記憶から消えうせてくれたほうが、むしろ幸せなのだろうか。そうではなくて、せめて親の記憶の中だけでも息子を永遠にとどめておきたい、と願うものなのだろうか。

 考えさせられる内容だ。
 私は、次のように思う。
 子の記憶は消え失せることはない。同時に、親の記憶の中に子を永遠にとどめておくこともできない。思い出は消えないが、時間の経過によって変化し、薄らいでいくものだと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第30回2018/7/1 朝日新聞

 佐山の相談の内容がだんだん明らかになって来る。紺野には話しづらいことで、洋一郎だけでなく妻にもかかわることのようだ。
 だとすると、「よしお基金」のことではなさそうだ。洋一郎の子どもと初孫にかかわることだろうか?

 あらすじが載ったが、序章の内容には一切触れられていない。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第28・29回2018/6/29・30 朝日新聞

 洋一郎の父親としての気持ちがうまく描かれている。
 私も、妻と子どもが楽し気に話している中にはなんとも入りづらい。私の周囲の父親たちも似たような感情をもっていると話す。退職後は、この傾向がますます強まる。なぜだろう?
 主人公が早くに自分の父と離別していることがその要因かとも思ったが、そうとばかりも言えない。
 子育てには、父親と母親の役割分担が大切だとよく言われていた。昨今は、役割分担などではなく、子育てにかかわるすべてのことを、母親と父親のどちらもできることが求められている。
 でも、洋一郎や私の場合は、子育てを妻に任せていた。その結果が、一家団欒からの疎外感につながるのだろうか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第27回2018/6/27 朝日新聞

 私の場合も、おおむね同じような悩みを抱えている。都市部に住むサラリーマン共通の悩みだ。住居のこと、つまりは年代に応じた住む場所探しが難しいのは、今の日本の大きな特徴だろう。
 これは、今の社会のどこかがうまく機能していない証拠だと思う。
 だが、庶民が年代に応じて住居を変化させられるとすれば、それは過去の社会では実現しなかったことといえる。子どもを育てる空間のある住まい、夫婦二人が生活するコンパクトな住まい、高齢になっても安全に生活できる住まい、を次々に手に入れることができるとすれば理想的だ。
 しかし、私が見聞きする現実は、次のようなものだ。
 子どもを育てる余裕のある家に住むには長距離通勤などの不便を代償にしなければならない。共働きの夫婦が退職する年齢になっても、その夫婦の子供は未婚であったり、住居の費用を親に援助してもらわねばならない。有料の介護施設、介護サービス付き高齢者住居などに入るには、年金と貯金では不足する。

 私の持ち家は築二十年になった。外壁と屋根は一度直したが、冷暖房機、温水器、サッシ窓、カーテン、塀と次々に修理が必要になっている。また、庭作りを退職後の趣味として楽しんでいるのだが、体力が落ちて来ると、その手入れが追い付かなくなりそうだ。庭を、高齢になっても楽しめるようにするには、とても払いきれないほど金がかかる。

 連載小説を読みながら、頭を抱えることになるとは!

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