朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第41回第8話 また夜が明けるまで② 2017/10/27

あらすじ
 忍は、高知の空港に到着する。到着して間もなく、東京から仕事上の急ぎの電話がかかって来た。到着ロビーで、その電話の応対をしているうちに、空港バスが出発してしまう。遅い時間だったので、空港ロビーには、人影はなく、呼んだタクシーも空港に来るまでは二時間ほど待ってもらわなけばならないとの返事だった。

 文子は、付き合っている宗平君の妹を迎えに空港に車で来た。宗平君の妹のゆみちゃんは、空港で働いている。迎えには来たが、ゆみちゃんは急に友達の家に行くことになり、迎えがいらなくなる。
 文子は、モルゲン土佐の応援をしていて、そのモルゲン土佐は、最終節を前に残留争いのただ中にいた。

感想
 忍と文子は、見ず知らずの間柄だ。だが、二人ともが熱心なサッカーのサポターであるのが読者には分かる。
 応援しているサッカークラブのことだけが気がかりな二人の女性は、つながりをもっていくに違いない。別々のクラブを応援している二人なのだが、それがどう関係づいていくのだろうか? 

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第329回2017/12/4
 
 俊介の言葉の通り、「奥さん」の位置に春江が安住するとは思えない。喜久雄と俊介に役者としての基礎を叩きこんだは、二代目半二郎だった。そして、役者として成長する二人を支えたのが、春江だ。
 市駒と彰子の存在は大きいが、綾乃を救っているのは、徳次と春江だ。綾乃があのまま身を持ち崩していけば、今の喜久雄の活躍はなかったはずだ。
 春江の生まれも生い立ちも分からない。母親がいることと、長崎で刺青の痛みに耐えている十五の彼女の思いしか明かされていない。

「負けるもんか。誰にも負けるもんか」(289回)

 
春江のこの思いには、きっと尋常ではない何かがあるはずだ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第328回2017/12/3

 今から二十年もまえ、山陰の芝居小屋で私が初めて見た二人の少年たちは、それぞれの仕方で必死に歌舞伎に食らいつき、今やその歌舞伎に取り憑(つ)かれてしまった、と。

 
素敵な誉め言葉だ。
 この高い評価を受けるまでの「二人の少年たち」の十六年は、凄まじい。
喜久雄
①襲名後、鶴若から苛め抜かれる。
②映画出演で極限まで追いつめられる。
③俊介の復活後は、スキャンダルで悪役にされる。
④鷺娘のパリ公演で大好評を得るが、辻村の件で窮地に陥る。
⑤娘の綾乃から徹底的に恨まれる。

俊介
①父の代役をできなかったことで、評判を落とす。
②家を出て、苦しい生活を送る。
③父から戻ることを許されなかった上に、長男を失い、荒みきった生活を送る。

 こういう辛さの極限が、二人を、芸の高みへ導いたというのであろうか。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第327回2017/12/2

 観客の前に立つ三代目半二郎に欠けているものなどない、というほどの文章だ。その容貌の美しさだけでなく、台詞、仕草、全てが観客を魅了して止まない。
 ここまでの舞台の三代目は、正に芸の神髄を極めた歌舞伎役者と言える。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第326回2017/12/1

 第十三章 Sagi Musumeが終わった。十二章に続いて波乱の章だった。

その一

 喜久雄は、どう見ても得にならない辻村の頼みを聞いた。その理由は、苦しい時に辻村に世話になったからだった。
 自分の人気や評判と世話になった人の顔を立てることを、秤にかけて、世話になったことに報いる方を選んだのだ。

 こういう二者択一でいけば、親の仇と、世話になったことのどちらを選ぶだろうか。どんなに世話になった人でも、親の仇とわかれば、仇を討つことを選ぶのが義理だと思うが‥‥

その二

 名優は、自分の素質を最大限に伸ばすことを求められると思う。同時に、自分の素質にはないものを獲得しなければならないと思う。
 喜久雄の素質は、女形としての美しさだったではないか。舞台裏での喜久雄の美しさは、光君としての舞台上でも存分に発揮されるのだろうか?

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