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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第271回2017/10/5 

その1
 女子大生、牛乳だけの朝食、庭でゴルフスイング、「ママ」、ようやく昭和を代表するような家族が登場した。そうそう、昭和の私たちは、国立大学の学歴を最高の価値と感じていた。
 同じ時代で、同じ歌舞伎役者の家なのに、喜久雄と彰子は、違う世界に住んでいる。
 不遇で、しかも美しい歌舞伎役者に、若い彰子が惹かれるのは恋愛の常道と思う。

その2(予想)
 竹野が企画したテレビのドキュメンタリーは、高い視聴率をたたき出し、俊介は引っ張りだこになる。おかげで、万菊との舞台も、劇評など関係なく人気が沸騰する。

その3(予想)
 テレビの俊介復活劇のせいで、喜久雄はますます悪役扱いされる。さらに、彰子とのことが、写真誌にすっぱ抜かれる。そのことは、千五郎の怒りをかい、喜久雄は江戸歌舞伎の舞台から完全に干される。

 作者は、読者をこういう風な予測へ誘っているようだ。
 ということは、‥‥

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第270回2017/10/4

 春江、市駒、洋子、喜久雄が好きになった人だ。誰を一番好きか、は野暮な疑問だ。結婚相手、遊び相手、という分け方も喜久雄には通用しない。
 この作品の世界では、本命、二股、不倫相手などという昨今の男女関係の区分けが意味をもたない。好きか嫌いか、共に生活できるかできないか、それの方が重要とされている。
 春江のことは長い間好きだったが、一緒に生活したことはほとんどない。市駒との仲が深まってからも、春江の所へは行っていたろうが、明らかに熱は冷めたようだった。
 市駒に家を持たせてからは、頻繁に通っていたようだが、洋子との仲が深まってからは、市駒への熱も冷めたようだった。
 春江に去られ、洋子に去られ、喜久雄は市駒と娘との暮らしで気力を回復した。

 春江がいなければ、長崎でも大阪でも喜久雄はもっと荒んだ気持ちになっていただろう。洋子がいなければ、人気が陰ってきた時の東京での生活に馴染めなかったろう。市駒と娘がいなければ、『太陽のカラヴァッジョ』の撮影で受けた精神的な痛手から立ち直れなかったろう。

 さて、彰子という人とは、どんな関係に。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第32回2017/9/1 第7話 権現様の弟、旅に出る②

あらすじ
 壮介は、久しぶりに神楽を舞うことに自信もなければ、気も進まない。しかし、神楽のリーダーで幼なじみの司朗に説得されて、猛練習し、姫路のスタジアムで無事に舞い終える。姫路FCのファンがどれほどイベントの神楽を観に来るのかと疑問だったが、意外にたくさんの人が真剣に壮介たちの舞を見てくれる。
 イベントの出演が終わり、壮介たちは着替えて、姫路FCと遠野FCの試合を観始める。遠野FCは前半で二点リードされる。司朗も壮介も地元チームの遠野FCに興味はなかったのに、後半が始まると、司朗が、神楽の権現様のかしらが入っている木箱にさわって、お願いしますよ、と言った。

感想
 
若い人々が去って行く方が多い地元へわざわざ戻るというと、何か気負った感じの人を想像する。また、後継者不足の伝統芸能を受け継ぐとなると、これも、そこに意義を見出して、頑張っている人を想像する。
 しかし、壮介には、そんな感じがない。久しぶりに神楽の権現舞を再開したのも、仕方なく引き受けている。だが、やり終えた後の爽快感はあるようだ。
 仕事で故郷の地方支社に残り続けるのも、地元の伝統を継承するにも、やり始めたら長く続けるのが難しいと感じる。一時的に盛り上がることも必要だろうが、そこには一時的なものしかないだろう。

 マツは、喜久雄の実母千代子を懸命に世話した。あらすじ 第二章
 幸子は、俊介が姿を隠しているのに、喜久雄の子を生む市駒の世話をした。あらすじ 第七章
  
 マツは、恨まれてもしかたのない千代子に尽くした。幸子は、憎しみを感じている喜久雄のために市駒の世話をして、喜久雄の子が無事に生まれるように尽力した。
 この二人に重なるものを感じる。
 
 前回の感想では、幸子の直感が当たっていると思ったが、別の考えも出て来る。
 松野なる爺さんは、春江だけにかかわる人物かもしれない。

 俊介と春江の家出の間のことは、水上温泉のホテルで働いていたことと、旅回りの一座にいたことしか出て来ていない。
 それ以上に、小説最初からの登場人物である春江の素性が、今まで全く語られていない。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第269回2017/10/3

 春江は動揺を隠す。
 幸子は嫌な予感を持つ。
 お勢は「なんや、しょぼくれたお爺(じい)ちゃんですわ」と囁く。
 俊介が戻ってくれて、跡取りの一豊ができ、新宗教から抜け出した。東京で、春江とともに、丹波屋の女将として動き出し、俊介復帰の舞台も評判の内に幕を開けたかに見えた。そんな幸子に暗雲が立ち込めたように感じる。

「せや、二人が家出しとったあいだに知り合(お)うた人やわ」

 この幸子の直感は当たっているに違いない。

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