朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第118回2015/7/30

 突然、昔の仲間が40年ぶりに訪ねてきた。自分は他人には見せたくないような惨めな暮らしをしている。しかも訪ねてきた旧友の方は、景気がいいようなのだ。
 この状況なら、訪問を受けた方は、気まずくていたたまらなくなるか、つっけんどんな態度を取ってもしょうがないと思う。
 ところが、「佐瀬」は、何とか「広岡」をもてなそうとしている。
 その気持ちが伝わって来る。

朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第83回2015/7/29

 「決心」を行動に移した「代助」は、実家でなんだか肩透かしを食っているようだ。
 普段は、父や兄嫁が真剣になって言って来ることを、「代助」がのらりくらりとやり過ごしている。その彼が今日は兄嫁ののんびりさに苛立っていた。

朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第117回2015/7/29  

 縮こまっていた心が、解けていく瞬間が描かれていた。

「俺は、何ももてなすことができない。おまえをここに泊めたいが泊められない。まともな布団の一組もない……」

 「佐瀬」は生活に困っていることを愚痴っているのではなく、昔の仲間に茶の一杯も出せない自分の不甲斐なさを悲しんでいると感じる。
 そして、「広岡」は、ジムの時代から仲間を思う気持ちを持っていた男だったのではないか。

朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第82回2015/7/28

 散々考えた末に結論を出したのかと読んでいたが、違っていた。「代助」は、行動すべき結論をまだ出せずにいた。
 前回まででは、「代助」は結婚が「三千代」との仲を「遮断」すると考えていたが、それは違うと考え始めた。
 既婚の女性を愛したと言うことは、結婚という形式が、男女の愛情を妨げない。ということは、「代助」の結婚も「三千代」への愛情の妨げにはならないという考えに至った。
 
 現代では、不倫の愛と言えば、既婚者同士の愛が当たり前のようになっている。これは、人間社会の進歩なのか、それとも別のことなのか。

 今回の結論は、「縁談を断るより他に道はなくなった。」であった。さて、「代助」は、どう行動するか。

朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第116回2015/7/28

 前回を読んで、読者として感じていたことを、主人公自身が考えているようだ。

死んでいないだけではないか。佐瀬のその問いは広岡自身にも突き刺さってくるものだった。

 それほど、この二人の境遇は共通している。
 二人の違いである金銭面については、「佐瀬」は、強い引け目を見せてはいない。

いくら貧しても鈍していないらしいことに、広岡は救われる思いがした。

 私も、二人の違いが金を持っているかいないか、ではないことに救われる思いを感じた。

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