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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第171回2018/11/24 朝日新聞

 今まで、洋一郎の母について、得られている情報は僅かだ。
 別れた父については、顔も思い出せないのに、ベランダのこいのぼりのことや、タバコ屋での会話を洋一郎は覚えている。それなのに、母についての思い出はほとんど語られていない。その母がようやく登場した。登場した母に、何か事情が生じたらしい。母は、今は義理の息子と同居なので、その義理の息子との間に何か変化が出たのかもしれない。
 
 子どもが六十歳に近づき、親が高齢になると、親子間では困りごとが増えるのが現実だと思う。寿命が延び、親子が昔よりも長い時間を共有するのは、幸福なこととされていたはずなのに。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第170回2018/11/23 朝日新聞

 娘、美菜に洋一郎が文句を言われる筋合いがあるのか。
 でも今の家族はこうなるだろう。家族は、母親を中心として動き、父親は、家族の行事にはいない方が「グッドジョブ」となる。この方が、家族の間はうまくいく。
 うまくはいくが、自分が洋一郎のような父親の立場だけに、なんともやるせない気がする。
 
 別れたきりになっていて、その上、死んでしまった実の父のことは、さっさと片付けてしまった方がよかったのか。

 父にかかわると、やはり、厄介なことになってしまうのだろうか‥‥。

 その父は、一人で暮らしながら、妻と子のことを気にかけ続けていた。気にかけてはいたが、会おうとはしなかった。そして、自分の人生を自分史にまとめ、自分のことを知らない人がそれを読んでくれればいいと思っていた。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第169回2018/11/22 朝日新聞

 人との縁を感じる、といっても、古い世間的な常識でとらえているのではなかった。その意味で、私の疑問であった西条さんが古い考え方の人か?感想165回は解消した。

 「わたし、自分の家族で亡くなった人、まだ誰もいないんです。(略)」

 
西条さんは、古い考え方で洋一郎に迫っているわけではなく、逆に新しい家族関係の申し子のような存在だと感じる。西条さんの年齢になって、家族で死んだ人がいないというのは、核家族化と高齢化ゆえだ。
 そういえば、洋一郎の子ども二人は、祖父(洋一郎の義父)の死を、家族の死として感じていないのではないか。また、会ったことすらない祖父(洋一郎の実父)の死を、家族の死と感じることはまったくないと思う。

 これからは、一緒に暮らしている親子、夫婦の死だけが、家族の死ということになっていきそうだ。
 このままでは、年をとればとるほど、人は孤立せざるをえない。現に洋一郎は、ラインのグループでは妻や子からも切り離されている。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第168回2018/11/21 朝日新聞

 西条さんの反応は、予想できた。彼女がビジネスだけでなく、石井信也という人物に縁を感じていたことは、今までの西条さんの様子に描かれている。

 「このわたしを、選んでくださったんです」と言った。「こんなに深いご縁って、ありますか?」

 人と人に縁を感じる。たとえ、他人であっても縁があれば、それを大切にする、西条さんはそういう人なのだ。感想165回 
 血縁であっても、実の父との縁を拒絶していた洋一郎との違いがはっきりしてくる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第167回2018/11/20 朝日新聞

 これは、大変なことになってきた!
 父がトラックドライバーだったことがわかった。母も姉も知らなかったことであろう。 
 トラックドライバーのコンビだった神田さんが、父の死を悲しんでいる。もう、用事のないはずの西条真知子さんが、この話を聞いて、ますます興味をもった。
 洋一郎にとっては、まったく予期しなかったことであろう。
 さらに、神田さんと西条さんが、遺骨に線香をあげたいと言う。引き取りもしないで、寺に預けたままの遺骨へ、二人を案内したら、洋一郎が困ることになるのは、目に見えていると思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第166回2018/11/19 朝日新聞

 神田弘之、父についての新しい登場人物、今までの和泉台ハイツ周辺の人たちとは雰囲気が違う。父、石井信也がより若かった頃からの知人か?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第165回2018/11/18 朝日新聞

 「でも‥‥長谷川さん、息子として、それでいいんですか?」

 この小説の洋一郎を取り巻く今までの登場人物は、二つに区分できる。
 姉の宏子・妻の夏子・息子の航太・娘の美菜は、血の繋がった家族だが、洋一郎の実父に対しては特別な親近感や身内としてのつながりを持とうとしない。
 大家の川端さん・道明和尚・和泉台文庫の田辺母子、そして、西条さんは、洋一郎と実父に父子のつながりがあるのを必然だととらえているし、より濃い父子のつながりを求めさえしている。
 これは、世間の風潮の過去と今の違いと重なると思う。
 親子、夫婦は、それぞれの事情にかかわりなく、強くむすびついている、むすびつくべきだというのは、過去の世に通用した考え方と言える。今は、そういう血縁がどんどん薄まっている。先祖からの墓であれ、親の遺骨であれ、事情があれば見棄てることも仕方のないこととされる。
 では、川端さんや西条さんは、古い考え方を洋一郎に押し付けようとしているのか?どうも、それだけではないようなのだが‥‥

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第回2018/11/17 朝日新聞

 やはり、西条さんは、洋一郎の父から何か、強い印象を受けていたようだ。川端さんも田辺さんも、父の暮らし方、父の晩年の日常に親しみを感じている。父の晩年の生き方に、惹かれるものを感じていた人がまた一人現れた。
 西条さんはライターとしての仕事だけでなく、自分史への父の考え方に強い興味をもったのではないかと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第163回2018/11/16 朝日新聞

 たくさんの人々に読んでもらおうとは思わない。家族、親しい人に読んでもらいたいとも思わない。自分が読むだけというわけでもない。
 たしかに、ライターは何度も読み直しながら書くだろうし、和泉台文庫に置いておけば、だれかは手に取ることもあるだろう。
 父の自分史についてのとらえかたは、よく考えられているし、当たっている。それでも、なお、自分史を作り、縁もゆかりもないライターの女性に読んでもらいたいというのは、今までの人生の中で、誰にも語っていない心の内があるように思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第162回2018/11/15 朝日新聞

 自費出版は金がかかるとは聞いていたが、自分史を作るのにもこんなにかかるのに驚いた。これだけの金額と手間をかけても、自分の今までの生涯を一冊の本の形にまとめたいと思うには強い動機と理由があるのであろう。
 西条さんは、父のどこかにそれを感じていたように思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第161回2018/11/14 朝日新聞

 父には、若い頃のことを思わせる何物も残っていない。別れた家族のことも、注意深く隠しているようでさえある。自分史のパンフレットと西条さんの名刺も全く残していないか、あるいは簡単には見つからないように隠しているのであろうか?
 謎めいている。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第160回2018/11/13 朝日新聞

 西条真知子さん、父のガラケーの着信から思いもかけぬ若く、そして今どきの職業の人が現れた。この西条さんに、父はどんな印象を残しているのか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第159回2018/11/11 朝日新聞

 だが、なぜ──。わざわざお金をかけてつくった自分史を、どうして誰にも配らず、手元にすら置こうとしないのか。

 自分の生涯を振り返り、記録しておきたい。だが、その自分史を誰かに読んでもらいたいとは思わない。それどころか、書き終わりできあがった自分史を自分の手元にも置かない。ただ一冊だけつくった自分史は、自分の過去を知りもしないし、昔の自分に興味もない人が偶然手に取ってくれればそれでいい。
 洋一郎の父は、こうとでも考えたのであろうか。
 
 和泉台ハイツに住み、和泉台文庫に何度も行き、近辺の寺で写経をする洋一郎の父は、晩年のこの生活に満足していたように感じる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第158回2018/11/10 朝日新聞

 
私は、文章を書くことは好きだが、自分史を書きたい気持ちにはならないので、自分史を作りたい人の気持ちがわからない。わからないなりに考えてみた。
 自分史を書くというのは、自分の生涯を綴ったものを多くの人に読んでもらいたいからであろう。自分史を書くことに興味を持つのは、必ずしも成功した人や業績の上がった人、いわゆる勝ち組の人ばかりではないと思う。負け組には負け組の自分の生涯を書き残したいという気持ちがあるはずだ。
 成功した人も、成功しなかったと世間からみなされた人も、自分の生涯に誇りや愛着を感じた人が自分史への意欲を持つのではないか、と思う。
 こう考えると、私は、自分の生涯に誇りも愛着もないということになるのだが‥‥

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第157回2018/11/9 朝日新聞

 和泉台ハイツに住むようになってからの洋一郎の父、石井信也は、周囲の人に強い印象、しかもいい印象を与えていたように感じる。それは、大家さんや和泉台文庫の田辺さんが、洋一郎に話してくれたことからわかる。
 サイジョウさんの反応も、仕事上の対応以上の感じがする。

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