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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第379回2019/6/27 朝日新聞

 姉は、父と洋一郎との出来事をたくさん覚えていた。しかもそれは、家族が仲のよい状態での良い思い出だと思う。そのことを、姉は洋一郎に一切言わないできたことが分かる。姉は、父の悪い面ばかりを洋一郎に繰り返し言い続けてきた。これは、ある意味では洋一郎を騙していたことになると思う。
 その姉が態度を変えたことに、洋一郎はなんの反応も示さず、父の若い頃の気持ちばかりを考えている。
 納得できない展開だ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第378~379回2019/6/26 朝日新聞

 父の死が知らされる前から、姉は、洋一郎に洋一郎が持っている父の思い出のことを冷やかすような嫌味を言うような態度だった。かなり酷い言い方をされても、洋一郎が姉に腹を立てはしなかった。洋一郎のこういう心理は、父の遺骨と姉との今回の場面とどう関連するのだろう?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第377回2019/6/25 朝日新聞

 父の死を知らされる前の洋一郎と姉の関係を特別なものだとは思わない。仲が悪いのでも連絡すら取り合わないほど疎遠になっていたのでもない。むしろ口喧嘩をしても平気なほど仲の良い姉と弟だった。
 でも、車の中の二人は、互いに孫のいる年になった姉弟の関係としては、めったにないほどの親密さだ。血がつながり、一緒に生活した者同士、要するに家族の一員であった者同士の深いつながりを取り戻している。
 独立した子ども同士は、家族としての感情を失ってしまう。それを、取り戻していると感じる。こういう心が温まるような時間を得られたのも、父の死に二人が関わったからなのだ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第373~376回2019/6/21~6/24 朝日新聞

 亡き父のことを偲ぶ、姉と弟。
 その姉と弟は、既に二人ともに孫のいる年齢になっている。姉が口にし続けていた父への激しい憎しみは、消えてしまっている。いや、憎しみが消えたのではなくて、姉には元々心の底からの憎しみなどなかったのだと思う。
 姉には、父との良い思い出と悪い思い出の両方があったはずだ。その良い思い出は、姉の中に残り続けていた。でも、母のことを思って、姉は自分でその良い思い出、父を懐かしむ思い出を無理やり押さえつけていたのだろうと思う。
 母の涙と言葉によって、母の真情を姉は知ることができた。
 そして、洋一郎は、母と姉の真情を知ることができた。

 小雪さんや神田さんと、さらに川端さんや田辺さん親子、さらにさらに言うなら真知子さんとも、私は父を通じて出会った。出会ったときには父はもうこの世にいなかったのに、あの人たちを通じて、父の存在は私の中でどんどん大きくなってきた。これも、ひこばえなのだろう。(373回)
 
 父の死は、父に関係のあった人たちと息子洋一郎を出会わせた。 

 姉は「優しいじゃない、洋ちゃん」と笑ったあと、ふっと真顔になって言った。

「お父さん、喜んでるよ、絶対に」(376回)

 そして、父の死は遺された家族の心を解きほぐし、結びつけたのだと感じる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第371~372回2019/6/19~6/20 朝日新聞

 母は、立派な女性だ。表面は、普通の性格と行動の女性のように見えながら、他を思いやる心と、なによりも二つの家族への愛情の深さを感じる。
 小雪さんも、立派な女性だが、私は洋一郎の母により心惹かれる。

 こんな二人の立派な女性に、愛されたのが石井信也なのだから世の中は不思議だ。

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