新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第202回2018/12/26 朝日新聞

 介護サービス付きの共同住宅で暮らすのは、そこにしかないようなトラブルも付きまとうのだろう。
 自分で、人生最後の住まいとして、こういう施設を選んだ場合は、そこでの暮らしのトラブルやストレスを乗り越えることもできるだろうが、自分で望まない場合は、そうはいかないと思う。
 後藤さんの場合は、今までの様子から、自分で望んで多摩ハーヴェストに入居したとは思えない。望まないどころか、息子に無理やり入れられた、という推測さえできる。

 洋一郎は、後藤さんのようなタイプの人を上手に扱えると思えない。
 自分史の真知子さんやトラックドライバーの神田さんのように押しの強い人には、結局言いなりになってしまってきた。後藤さんも自分の言い分を変えないタイプの人だろう。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第201回2018/12/25 朝日新聞

 有料老人ホームでは、個室で、自分の思うままに時間を過ごせるし、食事、入浴、洗濯などに煩わされることもない。しかし、それは、一人暮らしで、食べたいときに食べ、酒も飲みたいときに飲む暮らしをしてきた人には、居心地が悪いのだ。
 後藤さんは、健康にはよくないが、自分の思うように飲み食いをする暮らしを続けてきたのだろう。あるいは、認知症というよりもアルコール依存症なのかもしれない。
 とにかく、後藤さんの息子が、自分の父の今までの生活を、急いでなんとかしないとならない状況にあったのだろう。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第200回2018/12/24 朝日新聞

 父と後藤さんの人生で、人生でというよりは、父と後藤さん、そして、拓郎が生きてきた日本の社会は、景気は右肩上がりで、子どもも多かった。今のように人口減少や、高齢者問題はなかった。
 洋一郎の世代は、かなり若い頃から、介護の仕事や有料老人ホームを身近に感じられる。
 しかし、後藤さんの若い頃は、人は年を取れば、家族に面倒をみられながら、自宅で一生を終えるのが多数派だった。だから、介護に携わる職業の内容を知るすべもなかったと思う。
 
 真知子さんの取材?で、父から、人に迷惑をかけたような要素が出て来ないとすると、不自然な気がする。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第199回2018/12/23 朝日新聞

 主人公洋一郎は、この小説では、さまざまな問題・課題の受け皿になる構成のようだ。
①一人息子を若くして喪った夫婦の老後のこと。
②別れて音信のなかった実の父の死にまつわること。
③高齢者介護の仕事が誤解されていること。
④親が離婚再婚した場合の子ども(一家)の墓のこと。
 いずれも、今の家族の姿の静かなきしみと悲鳴だと感じる。
 これらを、作者が考察し、作者の意見を展開するなら、『ひこばえ』は、幅の広い題材を取り上げる小説になると思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第回2018/12/22 朝日新聞

 後藤さんは、何のためにどんな施設に入ったか、ということを分かっていない。
 さらに、自分が今は違っていても、介護が必要になる年齢だということや、老いがどのように自分にふりかかってくるか、の意識がない。
 だから、高齢者の最晩年の棲み処である場所のことや、高齢者介護サービスの仕事についても無知なのだと思う。
 それに加えて、しっかりした共同生活の経験をもっていないのだから、これは厄介だ。

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