新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第192回2018/12/16 朝日新聞

 だが、私の父親──イシイ・シンヤは、断じて、ノブさんと同じではない。

 この二面性が対立と混乱の元になっている。イシイ・シンヤは、どこかの時点でノブさんへと変化したのか?それとも、父は、元々、他人から好かれる面と嫌われる面の両面を持っていたのか?
 今までの展開では、このことを(作者は)すぐには明らかにしないように思う。
 神田さんと真知子さんが、洋一郎にほとんど同情を示さないのもなんとなく(作者の)作為を感じてしまう。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第191回2018/12/15 朝日新聞

 やはり、西条さんや神田さんを奇妙な人たちと感じてしまうし、話の展開も不自然だと思う。西条さんの空回りしかねないねばりも、神田さんの身勝手な熱意も、洋一郎の煮え切らない態度がそうさせているのか?それとも、父、石井信也の生き方に理由があるのか?
 家族を失った頃の父と、晩年の父との違いが、妙な対立を生んでいるのは確かだ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第190回2018/12/14 朝日新聞

 私自身の気持ちは、神田さん側にいったり、洋一郎側にいったりしている。今回では、はっきりと洋一郎に共感できる。神田さんの言う「親子の情」は、洋一郎と「ノブさん」の間では説得力をもたない。
 それよりも、真知子さんが言った言葉に考えさせられる。

「お父さんのこと、なにも知らないままで、ほんとうにいいんですか?」

 洋一郎はもちろんのこと、神田さんも父の人生の一部しか知らない。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第189回2018/12/13 朝日新聞

「ど、う、で、も、い、い」

 この言葉は、洋一郎が実の父に本当に無関心だからではないと感じる。それよりも、ここにいる人たちの中で、父の過去に実は深く関わったのが洋一郎だけだからだと思う。
 挿絵の西条さんと陽菜さんは、石井信也のほんの一部分の人生を垣間見ただけなのだ。深い付き合いだった神田さんとて、父がギャンブルに溺れていた頃のことや父が家庭を持っていた頃のことは全く知らないようだ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第188回2018/12/12 朝日新聞

 ここにいる洋一郎以外の人たちは、だんだんに興味本位の面を表してきた。特に若い西条さんと田辺陽菜さんはおもしろがっているとしか受け取れない。

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