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朝日新聞連載小説『国宝』『ディス・イズ・ザ・ディ』の毎回ごとの感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2016年10月

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第48回2016/10/20

 ドラマのあるシーンのような。
 好きになった二人が近づいていくシーン。
 男性が手料理でもてなして、オシャレなシーン。

 引きこもりの過去があり、今でも対人関係苦手の光也。自殺した母のことが常に頭から離れない理有。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第47回2016/10/19

 女性の感じ方だとつくづく思う。女の子の間でなければ分からないしぐさだろうと思う。

半透明の紫パールのボトルは、幼い頃ママが気まぐれに買ってくれたマニキュアの色によく似ていた。

 ポエムのような散文だなあ。

 理有と光也の間は、一段と接近したようだ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第46回2016/10/18

 恋愛の後に結婚し、離婚せずに子どもを育てるというモデルが、私にはあった。両親がまさにモデルだった。モデルがあると、画一的で平凡になるが、敷かれたレールの上を走る安定感があった。

 親の離婚を見ている子どもにとっては、どんなモデルがあるのだろうか。理有はそれを探しているようだ。

 父にまつわる思い出に、理有の心の内が表れていると感じる。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第45回2016/10/17

 理有がママをそのままにした時のことは、杏の眼からしか書かれていない。
 大学生とはいえ、若い女性が、母を苦しみから救うためには死しかないと即座に考えたのであろうか。そこはまだ描かれていない。
 母親をどう思っているかのヒントがこの回には出ている。

 言う気も言う必要もない。そう言い張る母の無責任さがまかり通ってしまったこと、それだけがあの四人家族が壊れた原因だったのかもしれない。そして私の懸念通り、母はジェットコースターの途中で一人どこかに消えてしまった。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第45回2016/10/18

 理有が広岡さんのことを、特別な人と感じているらしいことは以前の回の髪をカットしてもらう場面から感じられた。

 会話と様子から、その二人の関係を感じさせるところは、この作者の力量だ。こういう表現が楽しみになってきた。

 この回での、理有の夢の話の話し方がいい。それを受ける広岡さんの動じない様子もいい。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第44回2016/10/16

 理有は、冷静さと合理性重視だけで生きているのではない。

私には男性に対して言いようのない懐疑心が根付いていた。

 これも、理有の不安の一つだろう。
 父と母の離婚も理有を不安にしていた。

私だけが、父の不在に静かに衝撃を受けていた

 両親の離婚後、ママと姉妹の生活の実際を支えながら、理有の不安は消えることがなかったのだろう。


 作中の現在から時系列を遡ると、以下のようになるのか。
①理有が留学のため日本を出たのは半年前。 ※マレーシアに半年いて帰国して現在。
②ママの死が二年前。 ※ママの死から一年半が経った頃、マレーシアに。(42回)
③父が出て行ったのが六年前。 ※本文から逆算すると、母の自殺の四年前。

 ママが血だらけの部屋で倒れていたのをそのままにした。この事は、杏と理有しか知らない。

 血をあびていないぬいぐるみは四体だけだった。私は羊が血を浴びていないことに強い安堵を感じる。
「死んだらくれるってママが言った」
「杏、止めな!」
「これだけはどうしても欲しいの」
(36回)

 理有と杏とどちらがママをそのままにしたのだろうか?
 羊のぬいぐるみは、二人がしたことを証明する唯一の物になるのだろうか?

 この設定には、不気味さと独特の魅力がある。
 私の子どものころは、出来の良いぬいぐるみが今のように豊富に売られていることはなかった。そのせいもあり、ぬいぐるみを身近に置きたいと思ったことはほとんどない。それどころか、汚れないように透明の袋に入れられて長いこと放置されているぬいぐるみなんかは、すぐに捨ててしまいたい。
 そういう感覚からいうと、杏のこの感覚と行動は、到底分からない。分からないだけに、引きつけられもする。

 ママの自殺に眼を奪われて、その前に書かれていた晴臣の入院のことがどうでもよくなっていた。

 ママが死んで半年経ったころに、祖父母の家を出て、姉妹は姉妹だけでマンションで暮らし始めた。その時は、杏は中学三年生で、晴臣は同じ系列の高校一年生だった。晴臣は、付属中学校へ転校してきた杏を好きになり、晴臣と杏が付き合うようになった。
 晴臣が死に直面したのは、ママの死から一年も経っていなかったとある。母の死から約半年後、転校した杏が晴臣と知り合う。知り合って約半年後、晴臣が死に直面したことになる。

「でもオミが死んだら私も死のうって思ってけど」(32回)

ママの死から一年も経たない内に晴臣が死と直面し、それを見守っていた私は、ママが死んだ時には全く感じなかった感情の砂漠化を感じた。(32回)

 回復した晴臣に病気の兆候は描かれていない。事故だったのか?
 ママの自殺と、晴臣が死の直前までいったこととは関連するのか?死の原因については、関連しなくとも大切な人の死ということではつながらないはずがない。

 晴臣は、生死の境をさまよう状態になったがそこから回復した。 ※原因はまだ明かされていない。

 酔って帰宅したママの部屋から不審な物音がした。理有と杏が、ママの部屋をのぞくと、そこは血だらけでママが倒れていた。杏は、救急車を呼ぼうと言った。が、理有は、「間に合わない。ママは死ぬ」と言い、ママの異変に二人は気づかなかったことにしようと杏を説得した。理有に盾つくことができずに、杏もママをそのままにして二人で理有の部屋に戻った。しばらくして、祖父母がマンションにやって来て、ママの部屋に入った。祖父母は、理有と杏がママの自殺に気づいていないと思い込み、ママの様子を見せずに、理有と杏をマンションから連れ出した。祖父母は、手を回してママの自殺を隠蔽し、ママの死を心筋梗塞による急死であったことにした。理有と杏が、ママの自殺に気づいていながら何もしなかったことは、二人だけの秘密になった。
※杏の回想として書かれている。※ママの死は、作中の現在からほぼ二年前(理有大学生、杏中学三年生)のできごとだった。※晴臣が入院したのは、ママの死から一年も経たないころ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第42回2016/10/14

 杏は、ママの死についてどうとらえているか。

自殺したママ。自殺を許さない晴臣(はるおみ)。自殺を隠蔽(いんぺい)した祖父母。自殺を幇助(ほうじょ)した姉。自殺なんてなかったかのように振る舞う自分。(42回)

 
この表現と同時に、40回の次の部分も重要だと思う。

 あの時救急車を呼んでいれば助かったかもしれないママのママが、私たちが意図的に発見を遅らせたと知ったらどう思うだろう。理有ちゃんへの不信感と、ママが死んだ悲しみ、おばあちゃんへの申し訳なさ、自分自身の混乱。あらゆるものの狭間で潰れそうになっていると、ふとある思いが頭をよぎった。わたしが頼れる人はもう、理有ちゃんしかいないんだと。(40回)

 杏は、理有と自分を切り離せない存在として感じている。だが、ママの自殺についてははっきりと理有と自身の立場の違いを位置づけている。それでいながら、理有に依存し続けているのは、「わたしが頼れる人はもう、理有ちゃんしかいないんだと。」の思いなのだろう。

 もう、一点注目しておく。まだ、原因は明かされていないが、晴臣が生死の境をさまよったことも杏にとっては重要なできごとだったに違いない。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第43回2016/10/15

 杏が、理有をどうとらえているかは難解だ。

(略)理有ちゃんの腕は、私を安心させ、ぼそぼそに乾いたスポンジに水が染み込んでいくように満ち足りていくのを感じた。(6回)

理有ちゃんが救急車を呼ぶなと言った瞬間から、私の中で理有ちゃんのことが分からないという不安と恐怖が膨らみ続けていた。(39回)

(略)自殺を幇助した姉(略)(42回)

 杏は、姉のことを誰よりも頼りにして大切な人と思っているのは確かだ。それと、同時に母の死については、39、42回のようにもとらえている。

 姉理有のことにストーリーが移った。
 半年の留学を終えても、理有の心は安定していない。彼女の夢が、心の暗部を示しているように思う。
 理有にとって、頼りにすべき人はパパであったはずだ。また、理有の気持ちを察してくれる大人は広岡さんであったはずだ。ところが、この二人が、夢の中で理有を不快にさせる張本人になっている。
 母の死について、杏の不安や恐怖はまったく拭われていない。
 理有は、以前と変わらず冷静に行動しているように見えるが、母の死については杏以上にまだ混乱しているのではないか。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第42回2016/10/14
 
 33回の文章からママの自殺を、理有が中学生で杏が小学生のころの事と読んでいたが、そうではなかった。

ママの死後半年が経った頃、理有ちゃんの強い希望で私たちは理有ちゃんの大学と同じ路線上のマンションに住み始め、私は新しい中学校に転入した。

 ママの事は、理有が大学生、杏が中学生の時の事だった。
 そうなると、杏はまだ中学生なので、祖父母が杏を疑わなかったのは推測できる。でも、理有の場合はどうなんだろうか?
 祖父母は理有の嘘を疑っているのかもしれない。あるいは、祖父母は、理有をしっかり者のいい子と見ていただろうから、そんないい子が嘘をつくとは思わなかったのかもしれない。

 40回の記事とは違う読み方ができる。
 理有は、もう大人としての判断力を持っていた。同時に、彼女は中学生の頃から、ママの精神が荒れていく様子とママの苦しみを見続けていた。それだけに、ママに自殺を遂げさせようと判断し、行動した。

 次の文章に、杏がとらえていることが凝縮されていると思う。

自殺したママ。自殺を許さない晴臣(はるおみ)。自殺を隠蔽(いんぺい)した祖父母。自殺を幇助(ほうじょ)した姉。自殺なんてなかったかのように振る舞う自分。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第41回2016/10/13

 おじいちゃんとおばあちゃんは、周到に手を回し、プロにも依頼してもろもろのことを漏れのないように繕ったはずだ。だが、それでも理有は冷静な観察で、祖父母のしたであろうことを察している。
 理有の考えの進め方がますます明確になった。そこには、合理性重視、冷静で理知的というだけでないものを感じる。感情を交えず、理詰めで判断し、その判断を正確に実行する。人工知能とコンピュータ制御をイメージさえさせる。
 これが、ママの死に対する理有だと感じた。
 だが、理有はこのときとは違う面も見せている。マレーシアに定住したいと思っていた理有に、さらに、光也の気持ちをつかむことのできる理有に、合理性重視とは別の面を感じる。


 こんなストーリーになるとは思わなかった。姉妹にとって、これよりも過酷な状況を思いつかないほどだ。
 まだ、晴臣の傍にいる杏の回想なのだろうが、次はどんな場面になるのだろう。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第40回2016/10/12

 理有が考えた通りに事が進んだ。それに加えて、理有の演技が恐ろしいほど効果を上げた。
 自殺であれ、実の子のしたことであれ、二人が成人ならこの行為は罪に問われると思う。法律上の罪は問われなくとも、自分たちがしたこのことをどう心の中で持ち続けるのか、疑問は膨らむばかりだ。
 それに、二人はまだ少女と呼ばれる年齢だ。
 ここまで、考えて、気づいた。理有と杏には、いくつかの特異な境遇があったことに。特に理有には。

1.二人の年齢が低いこと※私の読み違えだった。理有は大学生で、杏は中学三年生だった。(10/16訂正)
 二人が現在の大学生と高校生という年齢であったなら、祖父母は、母の自殺を隠そうとしただろうか。二人が、まだ子供の顔を見せていたから、母の異変に気づかなかったという演技も疑われなかったといえる。
2.理有が置かれていた環境
 中学生の年齢で、家事のほとんどから家計の処理までをこなしていた。注目すべきは、母が飲んだ酒瓶の始末から妹の学校の準備までをして、自分のことも完璧にこなせるという能力を身につけていたことだ。これは、どう考えても、特異な能力とそれを助長するような過酷な環境に置かれていたというべきだろう。
 さらに、理有は、母子三人で暮らす前に、父とフランスで暮らしていた。このフランスでの暮らしの中で身につけたものも理有の性格に影響があるのではないか。

 理有が、ママと杏とは全く違う面を持っていたことは、杏の回想の中で何度か出てきている。理有は、ママと杏とは異なるきわめて合理性重視の生き方をしていた。だから理有は、ママの気持ちを理解して、それを尊重するためにはどうすることが合理的かを考え実行したと、とらえることもできる。

 でも、どうとらえようが、この姉妹の抱えているものはあまりに大きく重い。
 羊のぬいぐるみは、二人のしたことが消えないことを示している。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第39回2016/10/10

 理有の言動は演技としてしか受け取れない。
 もし、演技だとしたら‥‥
・祖父母がママの自殺を隠そうとしていることを、見抜いた。
・祖父母は理有と杏がママの部屋に入っていないと思っていることを、察した。
・理有と杏がママの自殺に気づいていなかったことを確実なものにする必要があると、考えた。
 そこまでを瞬時に計算し尽くし、嘘を隠し通すための演技だったことになる。

 ママの血だらけの状態から自殺を遂げさせるべきだと冷静に判断したなら、さらに計算した演技で自分と妹の行動を隠し通そうとしたなら、理有という人はいったい‥‥。

 ただし、ここまでは全て杏の眼を通して書かれている。

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