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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2016年11月

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第79回2016/11/21

 PCに何かを見つけるかと思ったが、そうではなかった。

 電車の中での杏の回想から、両親の離婚の前から、杏の理有への依存が始まっていたらしいことが伝わる。そうだとすると、この姉妹の特異な関係は母と姉妹の三人の生活だけが原因ではなさそうだ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第78回2016/11/20

 もうこのマンションには帰って来ないというほどの覚悟をしているのではなさそうだ。だが、しばらくの間は戻って来ないつもりなのだろう。杏が理有との生活を、初めて拒否している。
 理有に何かがあったのは確かなようだが、理有の生活は変わっていない。

きっと節電を心がける理有ちゃんが冷蔵庫の設定温度を上げたのだろう。

 それにしても、この姉妹の日常の行動は真逆だ。現実のこの年頃の人にもこんな両極端のタイプがあるのだろうか?杏の類型は現実にもいると思うが、理有のように細部までもれのない行動をする人は聞いたことがない。


 杏は何を見つけるのだろう?次回が楽しみ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第77回2016/11/19

 つかみどころのなかった杏のことが、この回の表現ではよく分かるようになった。

秘密を共有しているのも理有ちゃんだけで、ママを失った悲しみも、ママを失った解放感も、解放感への罪悪感も、理有ちゃんも同じ気持ちでいるんだと思うことで受け入れられた。

 こう考えていたのなら、今の杏の奔放な行動も理解できる。


晴臣がいれば、私は理有ちゃんと生きていた時と同等の、いやそれ以上の平穏の中で生きていられる。

 この感覚は、あまりにも危うい。晴臣は、あらゆる面で理有とは違う。

 ‥‥だが、おかしい。杏の心理がきっちりと説明され過ぎている。杏の行動には、理屈で説明できない何かがあったはずだ。

 むしろこうならないのが、不自然だ。
 理有が杏に優しかったのは、母のためだったと思う。母が亡くなってからは、二人の秘密が姉妹をつないでいたのではないかと思う。
 それが、変化したのは、理有に何かがあったのだろう。光也だけの影響ではないような気がする。

 理有の恋人が広岡さんではないかと疑った杏は、晴臣と二人で広岡さんのいる美容室に行ってみた。そこで、杏はパニック発作を起こしたが、広岡さんの冷静な対処のおかげで無事に発作は収まった。晴臣は、それ以来杏のことを心配し、彼女と離れて暮らすことを不安がるようになった。晴臣には、心臓の持病があり、去年発作を起こしていた。
 杏の希望で、杏と晴臣と理有と光也の四人が顔を合わせた。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第75回2016/11/17

 姉妹が対立すると、こうなるのか。かなり凄みのある対立だ。互いに恋人も絡んでいるので、なおさらドロドロしている。
 ここまで、読んできて、理有という主人公の気持ちに親しみを感じる。一方、杏の方はとらえどころがない。

「(略)光也(こうや)さんに対しても私に対しても、なんか測られてる感じがするっていうか

 理有がこう感じるのは、よく分かる。

「じゃあ言い方を変えるね。どうしてあの人と付き合おうって思ったの?」

 杏はこれを聞いてどうしようというのか。だいたいが、杏がそうしたいと言って、四人が会ったはずなのに、ここまでなら、光也と光也を選んだ理有に、難癖をつけているだけに見える。

 
 だが、この小説は、杏の回想や、杏の視点からの表現で、ストーリーが進む。
 光也が母の読者であることを知って、理有は逃げ出した。その光也とまた会うようになっていた。理有の気持ちの変化にまつわることでストーリーが展開すると思う。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第74回2016/11/16

 杏は、広岡のいる美容室に行ったことも、パニック発作を起こしたことも、理有に話していないようだ。
 理有は、広岡と会ったのだろうが、そこでどんなことがあったかを話してはいない。
 姉妹は、それぞれに秘密を持っている。そして、姉妹は姉妹二人だけの秘密を抱え続けている。
 その二人が、互いに火花を散らしている。

理有
杏の姉。大学生。半年間のマレーシア留学から戻って来て、妹の杏と二人暮らし。喫茶店で働いている光也と知り合い、付き合うようになった。


理有の妹。高校生。同じ高校の晴臣が恋人で、一人暮らしの晴臣のマンションに入り浸っている。美容室でパニック発作になった。

ママ 中城ユリカ 
理有と杏の母。作家だった。心臓病で急死したとされているが、真実は自殺で、そのことは姉妹と姉妹の祖父母しか知らない。また、自殺の現場を姉妹が見ていたことは、姉妹二人だけの秘密になっている。

パパ
理有と杏の父。母のユリカとは離婚した。フランスで大学講師をしている。理有とスカイプで連絡を取り合っている。

光也
喫茶店で働く25歳。初対面から理有を好きになった。引きこもりを乗り越えた経験を持つ。理有の母の著作を読んでいた。

晴臣
高校生。杏の恋人。高校生ながら、マンションで一人暮らしをして派手に遊んでいる。母親は女優で、長岡真理。持病の心臓病が悪化し、死の直前までいった。

広岡
理有が以前から行っている美容室の美容師。理有の気持ちを理解している。杏がはじめてこの美容室に行ったときに、パニック発作を起こしたが、広岡の冷静な対応で事なきを得た。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第73回2016/11/15

 生きることと、死ぬことが描かれ続けている気がする。
 姉妹の母ユリカの自殺。杏のパニック発作。晴臣の心臓病。

でも楽しそうにダンスをする晴臣を見ている内、死と隣り合わせであるからこそ彼はあんなにも楽しいのかもしれないと思ったから、私はクラブやビル街で踊る晴臣を止めることはない。

 
無軌道で、楽しいことだけを追い求めているように見える杏と晴臣だが、二人ともに死の恐怖を味わい、それを持ち続けている。


 光也は、他人が苦手であったのに、どうして晴臣と盛り上がることができるのか?
 理有は、光也が母の読者であったことを、どう受け止め、再び会うようになったのか?
 理有は、広岡さんと会ったはずだが、どんな話をしたのか?

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第72回2016/11/13

 杏が、強烈に理有に反発している。

理有ちゃんはきっと、自分が世界で一番ママのことをよく分かっていると思っていて、だから人に知ったような口をきかれるのが嫌なのだろう。

この男なら、既婚子持ちってことを差し引いても広岡さんの方がまだ良かった。

 自分から頼んで、光也と会わせてもらったのに、光也のことを見下し、姉の彼氏選びに難癖をつけている。だが、杏の観察は今のところは当たっている。

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