本屋のとなりは写真館

朝日新聞連載小説『国宝』『ディス・イズ・ザ・ディ』の毎回ごとの感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2016年12月

 理有について
 
 日常生活を維持する能力が高い。
 彼女は、飲み終わったマグカップをすぐに洗うとあった。私もやってみたが、意識してやらないとついつい後回しになる。でも、サボらずにやると、それが一番効率的だし、衛生的だ。
 彼女は、節電のために、冷蔵庫の温度を低めに設定するとあった。私は、冷蔵庫の設定など使い始める時以外は忘れてしまっている。でも、製氷機能は使わないので、取扱説明書を読むと製氷機能を使わない設定があった。この設定で、節電が確実にできる。
 人間関係を作ることが苦手だ。
 フランスにいた頃の親しい男の子エリアスは、周囲から変わった子と見られていた。光也は、引きこもりを乗り越えた青年だが今でも対人関係には違和感を感じている。
 彼女は、広くいろいろな人々と関係を作ることができない男性に好かれる。彼女自身も、大学での友人とは親しくなれないようだ。
 今、対人関係を作れないと言われる人は周囲にたくさんいる。私自身も、社交的と思われたことがないし、過去の基準でいえば人づきあいが下手ということになるだろう。

 彼女は、晴臣の自制心のなさと広岡の倫理観のなさを許さなかった。それは、既成の倫理観に支配されているからではないと思う。自分の生活をきちんと維持できる彼女の能力が、晴臣の浮気と広岡と杏の不倫を拒否させたのだと感じた。
 そして、それは今を生きていく上で大切なことだと私は思う。
 彼女を取り巻く環境は、過去も現在も安定したものとはいえない。それなのに、混乱から抜け出せるのは、父の愛を受けた経験が彼女を支えていたのだと思う。しかし、父とのつながり、亡き父とのつながりは限界を迎えた。

 作者は、理有に鋭い状況認識の力を付与している。
 理知で今の状況を分析できる力と、高い生活能力、そして、母と父の存在に惑わされなくなった理有は、将来をつかんでいると感じた。それが、次の表現に示されている。

何が正しく、何が間違っているか話し合い、二人にとっての真実の基準を作り上げていけるのではないだろうか。(最終回)


 私は、ストーリーの上では明らかになっていない理有の行動を、次のように読み取った。
 理有は、母が自殺であることを知っていたが、自殺の幇助はしていない。
 祖父母が来るまでは、母の異変に気付いていなかった。だが、母の死因が自殺であることは知っていた。
 理有は、亡き父と嘘のスカイプで会話をしていた。
 それが、架空のものであることを彼女は意識していた。そして、彼女がそのように亡き父を思い出していることは、母も知っていた。
 これについては、この作品中に私なりの根拠がある。それについては後の記事に書く。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ最終回2016/12/30

 静かで、それでいながら強い理有が戻ってきて安心した。元気で弱虫で、それでいながらしたたかな杏も戻ってきた。
 姉妹は、それぞれのやり方で、両親の死を受け容れた。姉妹は、母ユリカの「奴隷」ではなくなった。
 理有は、もう杏の「保護者」ではない。杏も、理有とは距離をもつことができたのであろう。

私はもう、杏という存在に惑わされず、ママという存在に惑わされず、パパという存在にも惑わされず、日々を送ることが出来るだろう。

 
最終回の文章は、簡潔できれいだ。
 私とは年齢の違う人間について考えることのできる作品だった。年齢は違う作中人物たちだったが、私も今を生きているので、私自身のことも新たな視点から考えることができた。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第116回2016/12/29

 求めても求めても母の愛を得られない理有の姿が浮かぶ。

「理有(りう)はユリカの奴隷で、杏(あん)の保護者だった」

これは、理有自身の自己認識だと思う。

「ユリカは俺以外の誰ともフェアな関係を築けなかった。そのことに絶望していた」

 これは、理有がとらえている両親の関係だと思う。

声を出して目を開けると、私の腕の動きと共に布団が擦れる音がした。

 
この表現が気になる。理有にも何か異変があったか?


 ここからは、最終回へ向けての予想だ。

 
 母は姉妹の父を愛し、その愛は娘二人への愛を上回るものだった。理有は、父の愛をフランスにいた頃に強く感じていた。しかし、母と父の愛に、理有は入り込む隙間を見出せなかった。
 離婚は、母と父の愛が消えたからではなかった。理由は分からない。
 両親の離婚は、理有にとって辛いものにならなかった。むしろ、父を独占できる感覚を味わった。その父が突然亡くなった。理有は、父を失い、母の愛を得られない中で、必死に母に自分を重ねようとする。
 母は、離婚をしても、姉妹の父がこの世で唯一の存在であることに変わりはなかった。
 その元の夫が亡くなった。理有と杏は、今までにも増して母の愛を求めてくる。が、母はそれを受け止めたくても、受け止める術を見出せない。
 母、ユリカは、理有の内に元の夫の理性的な精神を見て、杏の内に自身の奔放な精神を見た。
 ユリカは、理有が亡くなった父と会話を交わしていたことを知っていた。また、ユリカは、杏に激しい感情と性への強い執着があることを知っていた。そんな姉妹が成長するにつれ、ユリカの絶望は深まった。
 高橋が預かっていたユリカの遺稿の一部には、母が姉妹へどんな思いを持ち続けていたかを察することができる内容が書かれていた。
 それを、読んだ理有は、杏にそのことを伝えた。
 理有と杏は‥‥


 何よりも驚いたのは、次回が最終回だということだ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第115回2016/12/28 追加

 理有が考えていることでよく理解できる部分とまだ理解できない部分があった。理解できる部分をあげる。

ママの世界にあったのは、小説が完成していない世界と、小説が完成した世界だ。小説を完成させてから数週間は小説が完成した世界、それを過ぎるとまた新しい小説を書き始め、小説の完成していない世界に没頭し、小説の成就だけを目指した。

 ママユリカについては、ここに表現されていることがよくわかる。ユリカは、妻であり母であるよりも、作家であったのだと思う。

私はつまり、ママが否定していたある種の感情を、ママに対して強烈に持ち続けたのだ。それは他人への激しい執着であり、愛情であり、相手に幸せになってもらいたいと願う気持ちだ。

 これは、理有についてだけでなく、杏にも感じる。理有と杏は、行動は対極だが、ここに表現されている気持ちは同一だと感じてきた。姉妹の気持ちの根底が今までで最もよく表出されていると思う。
 理有も杏も、他人を受け入れることに臆病で、慎重なのに、気持ちの底に、「他人への激しい執着」と「愛情」を感じる。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第115回2016/12/28

 私は、次のように思う。
 理有がパパとスカイプで話していたことは、理有の幻想だった。
 母の死因については、杏の回想が真実に近い。ただし、杏の幻想の部分があるかもしれない。
 パパは、亡くなっている。そして、なぜか父の死も周囲には秘密になっている。高橋は理有に尋ねている。

「理有さん、お父さんとは連絡を取っていますか?」(87回)

 44回の記事で、私は次のように書いた。

 作中の現在から時系列を遡ると、以下のようになるのか。
①理有が留学のため日本を出たのは半年前。 ※マレーシアに半年いて帰国して現在。
②ママの死が二年前。 ※ママの死から一年半が経った頃、マレーシアに。(42回)
③父が出て行ったのが六年前。 ※本文から逆算すると、母の自殺の四年前。

 
これが正しいとすると、父の死は、父が出て行ってから母の死の間だろう。
 広岡は、杏に次のようにも話していた。

「四年前の、夏頃かな、初めて来た時か、少なくとも二回目とか三回目の時、母親は二年前に肺癌で死んだって話してた。(略)」(104回)

 これが、父の死のヒントになるかもしれない。

 ここまで、考えてみたが、疑問は膨らむ一方だ。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第114回2016/12/27

 今日は、まだ読んでいなかった。114回を読む前に、ブログを開いた。アクセス数が跳ね上がっていた。何か、あったか?
 114回を読んだ。驚いた。
 とりあえず、パパについて思い出してみよう。

四年くらい前から、一週間に一度、一時間くらい、私はこうして画面越しにパパと話している。(17回)(理有)

「(略)ママがパパと離婚してからも、一度もパパが必要だったと思ったことがなかった。理有ちゃんとママがいれば、もう私の世界は完璧だったの」(30回)(杏)

その女の子の腰を掴んでいた男はパパだった。(43回)(理有の夢の中のできごと)

どうやって生きていけばいいのだろう。母が父と離婚し、父が出て行った時、漠然とそう思った。(44回)(理有)

怖くなったらいつでもおいで。フランスで二人暮らしをしていた頃、私の寝る間際いつもパパが頭に手を置いてかけてくれた言葉だった。(46回)(理有)

私はスマホからパパにスカイプで電話を掛けた。向こうはまだ昼だし出ないかと思ったけれど、三回もコールが鳴らない内にビデオが繋がった。(51回)(理有)

「(略)同じ人間の形をしてても全然違う原理で生きてる。ユリカが何を考えていたのかとか、そういうことを考えるのは不毛だよ。ああいう人に対して共感をもって向き合おうとしても無駄なんだ」(52回・パパの言葉)(理有)

ママが死んだ後、半年くらいおじいちゃんの家にお世話になって、ここに引っ越してから一年半ほどが経つ。ママと住んでいた前の家は3LDKで、この家は2LDKだ。この家にもう一つ、ママの部屋がある形で、ママの部屋はリビングと直接つながっていた。パパがいなくなり、ママがいなくなり、理有ちゃんがいなくなり、理有ちゃんが戻ってきた。(55回)(杏)

「(略)私はパパがいなくなって、女の城みたいな快感もあったけど、(略)」(58回)(杏)


 私の記憶だけなので、重要な部分を落としているかもしれないが、ざっと今までを振り返ってみた。
 理
有の中では、ママと離婚し出て行ったパパが、今はフランスにいることにゆるぎはない。
 杏は、晴臣にはママとパパが離婚したと言っていた。だが、パパが外国にいるとは言っていない。「パパがいなくなり、」と言っている。
 
 私が奇妙に思っていたのは、母の死に関して、パパが全く登場してこないことだった。

 そして、パニック発作後の杏の言葉に、あれだけ冷静に力強く話していた理有の態度が一変している。

理有ちゃんは筋肉を一つも動かしていないように言うと、ペットボトルの水を床に置き、黙ったまま立ち上がりリビングを出て行った。

 これは‥‥

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第113回2016/12/26

こうして理有ちゃんが優しくしてくれるなら、もうママの死因が何であろうと、どうでも良いような気がした。晴臣(はるおみ)は浮気をした、広岡さんには奥さんがいる、ママはいない、私には理有ちゃんしかいないのだ。

 ママは心筋梗塞で死んだという理有の話は、理有の計略に思えてしかたがない。もし、理有が杏に嘘をついたのだとしたら、杏とは離れて暮らしたいからだと思える。私のこの推測が当たっていれば、理有の計略は、両面をもったことになる。死因については、計略通りだ。だが、理有への回帰ともいえる杏の思いは、狙いとは逆だ。

「杏(あん)はママの世界に行ったんだね」

 理有が、「ママの世界」をどうとらえているか、早く読みたい。

 母の未完成の遺作を預かっている高橋は、その原稿の中に遺書と思われる文章があると言う。理有は、高橋のその推測を否定し、その文章を読みたいとも言わない。
 
 理有は、連絡のつかない杏のことがいよいよ心配になる。杏のことを心配しながらマンションに戻った理有が、目にしたのは、美容師の広岡さんと裸の杏がベッドにいる姿だった。理有は、広岡さんと杏を、既婚者と高校生の不倫だとなじるが、二人は悪びれた様子も見せない。二人に幻滅した理有は、自分のマンションから飛び出した。そこへ、光也から、杏が晴臣の浮気を見つけて、三日前から晴臣の家に戻っていないことを知らせるメールが届く。杏の事情を知らされても、理有に杏を許す気持ちは起こらない。

 杏は、晴臣の家を飛び出して、広岡さんの美容室へ行き、その後の三日間のほとんどを広岡さんと一緒に過ごしていた。
 広岡は、杏の傷の手当てをし、彼女の面倒を見た。さらに、広岡は、杏と理有のマンションで、誘われるままに杏とセックスをした。そして、部屋の写真から、広岡は、自分の客だったユリカが、理有と杏の母であったことを知り、それを杏に話した。
 いつまでも、フラフラしていられないと思った杏は、自分たちのマンションに戻る。杏は、晴臣とよりを戻すつもりはなく、これからは高校へも行き、広岡さんとの仲も続けようと思っている。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第112回2016/12/25

 母の死の詳細については、杏の回想でしか描かれていない。
 理有から、母の死について詳しく話されたのは、前回(111回)だけだ。
 父は、理有とのスカイプで次のように言っていた。

「ユリカは病気だった。それで、ユリカの病気にも死にも、理有は関係ないんだよ。」(52回)

 杏は、晴臣に、母は心筋梗塞で死んだと言って(31回)いた。理有は、光也に母は心筋梗塞で亡くなったと言って(24回)いた。 
 こうやって見ると、母が自殺だったことは、杏の記憶でしかない。母が心筋梗塞で亡くなったのだとしたら、理有の言う通り、杏は自分の記憶を改ざんしていたことになる。しかし、杏の記憶は、母の死の場面だけではない。死の翌日の理有の言葉を記憶している。

「普通はこのタイミングで納棺しない」(41回)

 こういう姉の言葉まで、改ざんした記憶に残るだろうか、疑問だ。ただし、こういうことに気づく理有も鋭敏過ぎるとは思うが。

 杏は、またパニック発作を起こしそうだ。杏がパニック発作を初めて経験したのは、広岡さんから「何か、夢ある?」と聞かれ、次のような思いが浮かんだ時だった。

ママはいない。理有ちゃんとママと私の三人で暮らすことはもう出来ない。(62回)

 杏が最も恐れていることが、上の文に凝縮されているのだろう。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第111回2016/12/24

 理有の言うように、母の死が心筋梗塞だったら、杏の記憶改ざんは、異常で病的なものだ。理有は、杏の思考をおかしいと批判はしているが、杏に病的なところがあるとは今まで思っていない。
 母の死によって、杏の精神が異常をきたしたとも考えられる。だが、杏の独特な感性は、母の死にかかわらずに幼いことからのものであったと描かれていた。また、杏のパニック発作も、広岡さんの美容室で初めて起こったとされている。
 
 理有が記憶を改ざんしたとするのは、可能性はある。

 だが、それよりも可能性が高いのは、理有が意図的に嘘をついている場合だと思う。理有が、嘘をつくとしたら、杏と別の人生を生きようとするためだろう。母の死について、杏と秘密を共有したままでは、姉妹は離れられない。 
 理有が妹と根底から別れようとするなら、母の死についての二人の秘密をなんらかの方法で処理しなければならないのだろう。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第108・109回2016/12/21・22 追加

 なるほどと思った。

病気をして人格が変わる人がいるというのも、考えてみれば当然の話だ。体が変わるということは、その人の全てが変わるということに等しい。(108回)
 
 その通りだ。これは、病気だけでなく、体の変化全てに当てはまる。病気を克服するためには、心をしっかりともつことが大切という人がいるが、心と体を切り離してとらえていると、この考え方は危ないと思う。心は、体を支配するし、同時に体の影響を常に受けている。切り離して、考えること自体が間違いだと思う。
 杏がこう思っている設定になっているが、それは不自然だ。考えの中身も言い回しも、登場人物杏のものとしては、受け入れがたい。


「(略)杏が広岡さんの奥さんに慰謝料請求されたら私に払ってくれとか言うわけ?」(109回)

 不倫を世間から倫理的に追及されることは、昔ほどは過酷ではない。不倫が、相手の配偶者や子どもを傷つけることを、自分の責任とは感じない当事者がいるかもしれない。現代では、不倫に伴う一番のリスクは、慰謝料云々になっているのか。なるほどなあ。
 これは、理有の言葉だが、ここは不自然ではない。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第109回2016/12/22

 今回を読んでホッとした。これが、姉妹の正常な関係だと思う。

 理有の言っていることは、一々もっともだ。それに対する杏の感じ方も納得できる。
 どちらが正しいかの問題ではなく、姉妹といえどもそれぞれに個性の違いがあり、利害関係もあるのだから、トラブルが起こればこうなるだろう。
 今までのように、理有が杏の面倒を見続けることの方が不自然だった。その不自然で特異な姉妹関係から理有が抜け出した原因は、どこにあるのだろうか。
 杏は、理有に対して、これからどういう態度を取っていくだろうか。今はまだ、晴臣に対しても、理有に対しても、広岡さんに対しても、杏の心が相変わらず揺れ動いているのを感じる。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第108回2016/12/21

「既婚者じゃなきゃ晴臣くんと違って何の問題もなかったけど、杏(あん)が今してるのは不倫だよ」

 これは、どういうことだろう?不倫は、倫理的にしてはいけない行為、というのではないだろう。
 広岡の妻を傷つけるから、あるいは、広岡の子ども(56回)を不幸にするから、そのどちらかだと思う。そして、それは単に広岡と杏のことではないような気がする。


「理有ちゃん、広岡さんのことどう思ってるの?」

 杏が、理有と広岡のことを疑った(56回)のにはほとんど理由らしい理由がなかった。広岡に、直接姉との関係を聞いた時(100回)も、広岡自身に否定されている。それでも、杏は理有を疑っている。
 杏は、「おさるさん」(88回)なのに、迷うし、しつこい。このしつこさは、理有にもあると感じる。

朝日新聞連載小説『クラウドガール』金原ひとみ第107回2016/12/20

 杏は、自分のマンションに戻っただけでなく、理有への反発を弱めているようだ。同時に、広岡さんへの思いがすでに冷めてきているような気配もある。

 杏のことを愛しているのは、祖父母であり、理有であり、晴臣だ。そして、それぞれにその愛が届かない。
 祖父母は、杏とは住む世界が違い過ぎる。晴臣は、杏のために自分の行動をコントロールできないので、愛しているのに行動では裏切ってしまう。
 理有と杏は、母の存在があってはじめて成立する関係だと思う。だから、母が死んだ今は、互いが変わらなければ、互いの愛は届かないと思う。
 
 杏には、若い生命力が感じられない。強い寂しさだけを感じる。理有には、杏よりももっと強い寂しさと絶望感を感じる。

 この作品の登場人物に、祖父母以外では年齢や経験を感じない。父は理有といつも対等に話している。広岡は、杏や理有と比べれば、大人の狡さや賢さをもっているはずだが、それは出てきていない。杏と晴臣も今の若者の行動面の特徴が描かれているだけで、成長過程にある心身は描かれていないように思う。

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