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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2017年05月

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第139回2017/5/23
 
 俊介は、地方巡業で前の晩に飲みつぶれて舞台に遅れそうになったことがあった。『二人道成寺』で人気が出ると祇園での遊びも一段と増えたようだった。
 喜久雄は、地方巡業の頃から舞台一筋のようだ。観客が少ない時でも、その少ない観客を自分の芸で酔わせようと思っていた。また、人気が出てからも稽古をおろそかにするような様子は描かれていない。
 稽古と舞台に対する熱心さでは違いがあった。だが、だからと言って、俊介と喜久雄の間で、はっきりとした芸の実力の差が出ていたのであろうか。少なくとも、今までの流れからはそれを読み取ることは難しいと感じる。
 半二郎は、どんなことを考えて喜久雄を代役に指名したのであろうか?

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第138回2017/5/22

 興行的な話題性を狙っての喜久雄の起用ではなかった。
 事故に遭った半二郎の代役としては、息子の俊介がふさわしいと、梅木社長も大御所の役者も歌舞伎好きの観客も思ったはずである。それが、まだ大役の経験の少ない俊介であっても、今回は特別に納得されたであろう。
 そして、普通に考えれば、半二郎自身がそう願うはずだ。
 花井の家では、俊介を差し置いてまさか喜久雄が起用されるなど全く予期していなかったことがよく分かる。さらに、喜久雄を代役に指名したのが、半二郎自身だったことが驚きをより大きなものにしている。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第137回2017/5/21

 喜久雄と俊介が、スターになれたのは、地方巡業で二人が「二人道成寺」を演じ、それが劇評家の目に留まったからであった。二人が「二人道成寺」をやれたのは、半二郎が若手活躍の場のための地方巡業を行ったからであった。
 俊介が、大抜擢で半二郎の代役をやるとなれば、それはもう半二郎の事故ゆえである。

(略)こうなった今となりましては、半二郎に虫の知らせがあったとしか思えぬほど、『曽根崎心中』という戦後の関西歌舞伎を代表する当たり狂言の稽古を、二人に一から叩き込むつもりで毎日見せていたのでございます。

 
「二人に」ということは、喜久雄にも可能性があるということか?
 俊介には、血筋という何よりの強みがあり、観客の同情をひく効果がある。喜久雄には、熱心さと興行的な意外性があると思う。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第136回2017/5/20

 喜久雄と俊介の人気が出てからの生活が、今ひとつ分からない。俊介の方は、昼間は舞台と取材で忙しく、夜は夜で遊んでいる様子が描かれていた。喜久雄は、俊介と一緒に遊び歩いている描写がない。むしろ、徳次と一緒にいた。いずれにしても、二人とも、ファンや御贔屓筋からちやほやもされているだろうと思う。
 それでいながら、今回を読むと、半二郎の邸での生活は依然とあまり変わっていないようだ。カレーライスの件は若手役者そのものだ。
 歌舞伎界のスターと言っても、まだ歌舞伎以外での知名度はそれほどでもないのであろうか。

 俊介と幸子の会話と動作、話題の深刻さと日常の描写の織り交ぜが絶妙だ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第135回2017/5/19

 喜久雄だけでなく徳次も、どんなに半二郎のことを心配したかが描かれている。大阪に来るまでは、半二郎は二人にとって縁もゆかりもない人物だった。
 また、半二郎の方も、喜んで喜久雄と徳次を引き受けたわけではなかった。
 だが、この四年の間に芸の上での師匠というだけでない繋がりができあがったのだと思う。
 喜久雄は、出先で事故を知らされたので、半二郎の身を案じるだけで精一杯だった。その点、俊介と幸子は半二郎の命に別状がないことを知らされており、他の心配をする余裕があったらしい。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第回2017/5/18

 喜久雄は、ある日突然人気役者になったと言える。芸の稽古は、人の何倍もやってきたが、芸能界のことを何も知らずに人気者になった、という設定だった。
 その喜久雄だが、徳次や弁天と一緒にテレビの収録に付いて来て、ベテランの師匠が若いディレクターの言いなりになる現場を目撃している。また、徳次と一緒にいる時間が長いようだから、映画界のことも芸人横丁の売れない芸人のことも見聞きしている。これは、喜久雄にとって芸人と芸能界の裏表を学ぶ機会になっていると思う。
 その喜久雄にとんでもないニュースが飛び込んできた。半二郎の事故の時に、喜久雄だけが邸にいなっかったということから何かが起こるのか?

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第133回2017/5/17

 若いテレビディレクターの要求をはねつけて帰ってしまった師匠の代りに、弁天と徳次が番組の穴を埋め、しかもそれが、大受けする。そんな展開を予想したが、それほど甘いものではなかった。

 もしテレビの世界で認められれば、また人気者に返り咲けるかもしれません。師匠もそれは分かっているのでございます。そんな師匠が惨めにも太々(ふてぶて)しくも見え、泣くに泣けない喜久雄たちでございます。

 作者は、喜久雄たちに、テレビの力を見せつける場を設定した。
 スターというのも、なかなか苦労なものだとつくづく感じる。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第132回2017/5/16

 喜久雄は、スターと言っても、歌舞伎の舞台上のこと。取材を受けるのも雑誌に載るものだし、後は写真がせいぜいのようだ。
 だが、時代はいよいよテレビ全盛に移っていく頃だと思う。
 そのテレビでの演芸だが、出演する方が慣れていなかったということをよく聞く。西洋師匠の泣き言も、まさにそういうことだろう。寄席では、考えられない時間短縮の要求なのだ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第131回2017/5/15

 映画には出演しなかったらしい弁天が、また元気に登場した。そういえば、130回では、春江が登場している。
 人気者になった喜久雄だが、お高くとまっていないようで、安心した。
 テレビ収録に怖気づく師匠の沢田西洋、そこへいつの間にか弟子になっていた弁天と、大部屋俳優の徳次、これはなにかが起きそうだ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第130回2017/5/14

 やはり。
 それにしても、徳次らしい。

 そして、半二郎の次の言葉がカッコイイ。

「(略)あとで世話かけられるより、先に世話焼いたるほうが」マシや。

 
これで、徳次の身の振り方が定まったようだ。

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