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朝日新聞連載小説『国宝』『ディス・イズ・ザ・ディ』の毎回ごとの感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2017年10月

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第286回2017/10/21

 春江の今の境遇は、春江が言う通り、本人が想像もしなかったような変化だ。弁天もまたそうであろう。
 それなのに、二人が話すと、昔通りの「春ちゃん」と「悪ガキ」に戻っている。
 
 万菊に稽古をつけられ、喜久雄と俊介は、それぞれが舞台に立っているようだ。しかも、二人ともが評判になっているらしい。
 喜久雄と俊介は、昔の関係に戻るどころか、役者としての勝ち負けをはっきりさせようとして、激しく競い合っているのだろう。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第36回 第7話 権現様の弟、旅に出る 2017/9/22

あらすじ
 「権現様の弟」のことは、少し有名になってくる。遠野FCの客席にいる獅子舞に頭を噛んでもらうと、いいことがあると話題になっていた。
 本社から来ている柳本さんが、壮介が中にいるとは知らずに、遠野FCを応援している獅子舞のことを壮介に話す。また、同じく本社から来ていて何かと壮介につらく当たる西島さんのことを、後輩いじめしかできない人と非難する。
 仕事に戻ると、西島さんが、壮介をバカにするように遠野FCの悪口を言って来る。壮介は、珍しくはっきりとそれに反論した。
 
 壮介が好意を持ち始めている柳本さんが事故で骨折をした。

感想
 
「権現様の弟」のことが話題になり出した。サッカーの試合に獅子舞のかしらは珍しいに違いない。また、頭を噛まれるといいことがあるという噂がネットのニュースになるというのもおもしろい。
 昭和の頃、祭りの時などの獅子舞は、全国的に珍しくはなかった。そして、頭を噛んでもらうと厄払いになるというのも広く知られていたことだ。そういう風習が廃れ、また復活すると新しいものに感じられるのだろう。
 ゆるキャラやマスコット全盛だが、中に人がいることを忘れている。子どもはいざ知らず、大人なら中にいる人のことも意識すべきと感じた。
 「権現様の弟」がもっと有名になれば、壮介は自分が中にいることを隠し通せなくなるだろう。その時に、壮介は自分の立場と考えをもっとはっきりとさせなければならない。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第35回 第7話 権現様の弟、旅に出る④ 2017/9/15

あらすじ
 司朗たちの神楽の団体で使っている権現様の獅子頭は、安政の頃に作られた由緒のあるもので、神楽の舞台以外に持ち出せるようなものではない。
 壮介は、通販サイトで権現様にそっくりの獅子頭を発見し、酔っていた勢いもあって、そのかしらを購入する。買い込んだ獅子頭を権現様に似せるように壮介は色を塗り直した。
 その通販の獅子頭を神楽のメンバーに見せると、皆は本物の権現様に似ていると言う。そこで、司朗は、通販のかしらを「権現様の弟」と呼び、遠野FCの試合に連れて行こう、と言い出す。
 こうして、「権現様の弟」は、遠野の試合を応援するようになった。かしらの中には、いつも壮介が入って応援している。

感想
 どんなものでも通販サイトで買えるということだ。
 通販で買った獅子頭で、引き分けの試合ばかりをしているチームを応援するというのは、なんだか妙な感じだ。
 おもしろがって、目立つことを狙っているという気もする。いや、地域に伝わる由緒あるもののレプリカで、強くはない地元のクラブを真剣に応援しているという気もする。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第278回2017/10/20

 弁天は、度々登場するが、登場人物としては重要ではないと思う。狂言回しとして、筋の運びをする役柄だ。弁天が登場した最初は、春江に声をかけた場面だった。そうなると、今回の登場は、春江の物語が始まることを期待してしまう。

 私の予想274回感想その2はほとんど外れたが、特に春江と彰子については大外れだった。それほど、凡人の読者にとっては意外な展開だった。
 春江の今までは、この小説の登場人物中で最も波乱に満ちているといえる。長崎の街娼、大阪のクラブの売れっ子、俊介と失踪、復活した俊介を支える梨園の女将、これだけでもその浮き沈みは、主人公喜久雄を上回る。さらに、喜久雄から俊介へと「旦那」を変え、今や丹波屋の跡取り一豊の母だ。
 何が、春江にこのような生き方をさせているのだろう?

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第284回2017/10/19

 万菊は、喜久雄と俊介をとことん競わせ、二人ともに辛い思いをたっぷりと味わわせると思う。
 万菊は、俊介のことを歌舞伎界の大切な大切な後継者と思っているだろう。そして、喜久雄にはその美しさを超える芸を身に付けさせたいと思っているだろう。
 そう思えば、思うほどどちらかが潰れてもよいくらいの過酷な稽古をつけると思う。それは、白虎が二人に対してやったことでもある。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第283回2017/10/18

 小野川万菊の今までの言動
①喜久雄と初対面の時に、その美しい顔が邪魔になると助言した。
②梅木社長が喜久雄の後ろ盾を依頼した時には、断った。
③見世物小屋で俊介の芸を観た時には、俊介の歌舞伎への憎しみを見抜いた。
④俊介復帰の後ろ盾になった。ただし、万菊は俊介を復帰させ引き立てているようで、『娘道成寺』では、自分の芸を目立たたせるために俊介と共演したともとれる。

 「痩せ蛙」は、喜久雄のことであろう。そして、「痩せ蛙」の喜久雄に、先に稽古をつけている。喜久雄にも万菊が稽古をつけることを、俊介は知らなかったのではないか。そうだとすると、これはかなりのショックを俊介に与えるはずだ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第282回2017/10/17

 喜久雄は、幸子に言われて、一度襲名を断ろうとした。また、死を前にした白虎が、俊介の名を呼んだ場面にいた。そして、俊介が戻って来た丹波屋をあさっりと去っていた。
 それなのに、「花井半二郎」の名を背負い続けたいと思う気持ちが、まだよく分からない。

 俊介は、万菊と共演した復帰の舞台の後も順調に主役を勤めていた。だが、万菊との舞台には満足していないようだった。また、松野という男の存在が不安を感じさせる。

 喜久雄は、彰子を騙した。その彰子に、思いがけない方法で救われて、新派にいる。
 俊介は、竹野と万菊に救われた。竹野の策略で、喜久雄を悪者とすることによって、人気を得ている。
 二人ともが、本人同士の気持ちとは裏腹に、対立関係だけが騒がれている気がする。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第281回2017/10/16

 次々に主演として舞台に上がり、人気も上々だ。別に好感度を求めてはいないので、陰のあるイメージも邪魔になるどころか、かえって好都合だろう。
 新派ではあるが、舞台上で役者として恍惚感さえ味わっている。
 そんな喜久雄がこれ以上求めるものがあるのか。
 いい役もつかず、千五郎の後ろ盾も得られず、徳次に愛想尽かしをされそうになった時と比べるならば、新派で観客を魅了する今の喜久雄は、なんの不満もないはずだ。


 喜久雄の運命が好転していくストーリーは、かいつまんで書かれているに過ぎない。
 俊介の復活後のストーリーは、ほとんど書かれてさえいない。
 この二人、歌舞伎と新派でそれぞれ活躍できるようになったが、二人ともが現状に満足はしていないと思う。

国宝 あらすじ 251~270回 第十一章 悪の華

 春江と一豊は、俊介の実家で幸子や使用人たちと生活を始める。幸子の所には、相変わらずに新宗教の面々が我が物顔で出入りをしている。春江は、幸子の孫かわいさを上手に使って、この新宗教の面々を屋敷から追い出してしまう。
 すっかり春江の味方となったお勢の問いに、春江が答える。俊介は、「本物の役者になりたいねん」と言って、春江と共に姿を隠したと。
 幸子は、舞台復帰が決まった俊介のために、大阪の屋敷を引き払って東京に出ることと、春江を丹波屋の女将に育て上げることを決心する。春江は、丹波屋の東京進出の折りに、喜久雄に長い手紙を書く。喜久雄からは、大阪の屋敷を三友に返すことの承諾と、借金を俊介に移譲することに応じること、丹波屋へは感謝しかない、という短い文面の返信があった。
 俊介の復活劇を画策している竹野は、喜久雄に隠し子がいるというスクープを雑誌に売り込む。このスキャンダルは、世間の注目を浴び、喜久雄に悪者のイメージがつく。
 一方、俊介は春江と一豊と一緒にテレビのインタビュー番組に出演して、全国の視聴者に好感を抱かせる。
 俊介の復活の舞台は、世間の注目の内に幕を開ける。劇評では、俊介・半弥の芸は高く評価される。だが、役柄の解釈には疑問があるとされる。俊介自身は、この劇評を読み、褒められたとは言えないと言う。

 劇場からまだ俊介が戻らぬ家に、松野という男が訪ねて来る。

 すっかり悪者のイメージが定着した喜久雄に、相変わらずいい役は回って来ず、ますます窮地に陥っている。その喜久雄は、江戸歌舞伎の吾妻千五郎の娘の彰子と同棲する仲になっている。
 喜久雄は、彰子が婚約中だということを知りながら、千五郎の後ろ盾欲しさに彰子を騙していた。
 その喜久雄が、彰子との結婚を許してほしいと、千五郎の所に行く。千五郎は、喜久雄の策略を見抜き、激しく怒り、絶対に結婚を許さないと怒鳴りつけた。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第280回2017/10/15

 徳次が今までとは違う何かをやるという予兆は見えていた。第十章「怪猫」の前半辺りから、徳次の動きが今までは違っていた。234回感想 しかし、喜久雄を殴り、叱りつけるとは!

 彰子の登場は、この女が重要な役割を持つことを予想させた。(250回)しかし、その彰子が喜久雄の世話をやり通すとは!
 歌舞伎役者には、役者を支える女房の存在が不可欠なことと、市駒は役者の女房にはならない233回感想ことに、気づいていた。だが、それを、女子大生でお嬢さん育ちのように描かれていた彰子がやるとは、いひょうを突く筋立てだ。


 (略)本来の喜久雄が持つ主役としてのカリスマが溢(あふ)れ出した(略)

 これが、喜久雄の魅力なのだ。そして、この喜久雄本来の「カリスマ」は、大御所の歌舞伎役者と俊介にとっては、脅威なのではないか。

朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第34回 2017/9/8 第7話 権現様の弟、旅に出る③

あらすじ
 
神楽を舞い終わって、姫路と遠野の試合を観ていた神楽のメンバーたちは、次第に遠野を応援し始める。遠野は先制されるが、終盤に得点して引き分けに持ち込んで試合を終える。遠野が負けると思っていた司朗や壮介は、引き分けなのに遠野が勝ったような感覚を味わう。
 この試合をきっかけに、壮介たちは地元の試合だけでなく、遠野の遠征にもついていくようになる。遠野FCは、さんざん点を取られたあと後半に追いつく展開をするチームだ。司朗は、その追いつく感覚が忘れられないと言う。壮介は、司朗ほど魅了されてはいなかったが、サッカーを観ていると、職場でのうっとうしいことを忘れることができた。
 ところが、職場では、西島さんの壮介への当たりは以前にも増してきつくなっている。壮介が遠野FCを応援していることを知った西島さんは、得意先での話題で、壮介の遠野FC応援のことを嘲るようになる。

感想
 
サッカーという競技にそれほど興味がないのに、地元のチームを応援するようになる経過がよく分かる。
 生まれ故郷といっても、そこから出ようと思えば、それほど大変なことではない。むしろ、経済的な発展が見込めない地元の場合は、そこに残る方が、むずかしい。そういう時だからこそ、地元に残っている人や戻って来た人は、何かのきっかけがあれば、地元のサッカーチームを応援したくなる気持ちが4わくのであろう。
 生まれ故郷のどこに愛着を持つか、そして、その気持ちを持ち続けるか、現代ではむずかしいことだと思う。
 要するに、働く年代の人々は、地元であるかどうかに関係なく、経済面で発展する地域へ集中するのが、今の時代なのだと思う。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第279回2017/10/14

その一
 意外な方向へ進んだ。喜久雄が歌舞伎以外で新境地を開くとしたら、テレビか映画だろうと思っていた。
 吾妻千五郎の反応も意外だった。彰子と喜久雄のことを隠し通すか、彰子の言いなりになるかだと思っていた。

その二
 俊介と喜久雄の間に今までにないライバル心を感じる。単に好敵手というだけでなく、どうしても勝ち負けの決着をつけなければならない対戦者同士になっている。
 同じ演目の同じ役で、俊介と喜久雄は、芸の優劣、人気のあるなしを争うことになった。

その三
 丹波屋に戻り、我が子一豊に初舞台を踏ませた俊介なのだが、なんとなく不安な影を感じる。彰子と共に暮らし、役者廃業寸前を救われた喜久雄なのだが、望むような役者の道を進んでいる感じがしない。

 代役と襲名を、喜久雄が手にした。春江と復帰後の舞台の評判を、俊介が手にした。そして、「八重垣姫」の役作りで、二人の間にはっきりとした勝ち負けがつくのだろうか?

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第278回2017/10/13

その一
 俊介と喜久雄は、その芸の土台となる稽古は共通であった。なんと言っても、二人の師匠は二代目半二郎であった。
 俊介が万菊に、喜久雄が歌舞伎以外の場で、それぞれ新しいものを身に付けたとしても、二人の芸の土台は同じだろうと思う。

その二
 端役にしかつけなかったが、喜久雄の芸に、万菊も鶴若も得体の知れないものを感じていたように思う。
 梅木社長は、他の歌舞伎役者にはない魅力を喜久雄が持っていることに気づいていた。鶴若も、それを感じ、喜久雄がその魅力を増すことに、怖れさえ感じていたのではないか。(182回) 182回感想
 そして、喜久雄自身も、自分の魅力に気づいていなかったと思う。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第277回2017/10/12

 お勢は、「しょぼくれたお爺ちゃん」言っていた。
 春江は、苛立ちを隠さなかった。竹野は心配そうにしていた。
 
 人は見かけで判断すべきではないのでしょうが、これまで幸子が生きてきた世界では接点のなかったタイプの老人でございます。(269回)

 たとえ、旅回りの一座にいた者でも芸人なら接点はある。また、辻村のようなタイプの人とも接点はある。幸子と接点のなかったタイプの男、謎だ。

 今回でも、松野はいかにも貧相な外見ながら、いつもニコニコしている老人と描かれている。そして、俊介はそれとなくこの老人に気を遣っている。
 これだけ念入りにみすぼらしい様子の老人と書かれると、かえって、松野に外見とは真逆の本性や過去を疑ってしまう。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第276回2017/10/11

 円満で安定した歌舞伎役者の家の場面だ。だが、そうとばかりもいっていられない。なぜなら、今は父となった俊介の小学生時代も、きっと、この時と同じようであっただろうから。
 一豊は、多くの人から可愛がられ、同年代の子には想像もできないほどの拍手を浴びる。だが、歌舞伎役者の子は、歌舞伎役者への厳しい道から外れることは許されないのだ。あっさり、諦めているかにみえる遠足にしても、自分以外の皆は行けるのにと思うとやり切れないに違いない。
 
 次回への期待が嫌が上も増す。「遠慮がちな男」は、誰か?
 前の章に一瞬登場した松野(269回)なる男か?だとすると、この男は、俊介や春江とどんな関係か?それとも喜久雄か?喜久雄だとすると、よほどの変わりようだ。彰子と喜久雄はどうなったのか?

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