2018年04月

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第426~429回2018/3/14~3/17・第十八章 孤城落実1~4

 俊介と一豊は、まるで同じ道を歩んでいるようだ。
 人気が出ると遊び歩く、翌日の舞台に差し支えるほど深酒をしてしまう。それを意見されても、反省する様子もない。だが、芸が疎かになっているかというとそうでもない。人気役者としての華やかさはむしろ磨かれているようだ。
 父と息子が似た生き方をするのは、遺伝と環境の類似という要素だけでは、説明しきれないものがある。人は、先祖から伝わる何かに支配されていることが描かれていると思う。

 喜久雄は、実父権五郎と似た生き方をしているのであろうか。それは、まだ分からない。しかし、歌舞伎役者として大御所と見られる位置に来ても、喜久雄には父の極道の気性が継がれているのは間違いなさそうだ。

朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第412回2018/2/28~第425回2018/3/13 第十七章 五代目花井白虎

 俊介が逝った。

 五代目花井白虎として果たすべきことを果たして去って行った。
 春江に、幸子に、俊介は伝えるべきことを伝えていたように感じる。
 喜久雄は、春江と幸子とは違っていた。

この数ヵ月、自分なりに覚悟はしてきたつもりでありながら、俊介がいなくなることがどういうことなのか、まだ何も理解していなかったのでございます。(422回)

 喜久雄と同じように読者として気づいていなかった。喜久雄がどんなに俊介と結びついていたかを。喜久雄にとっても、俊介にとっても、どんな歌舞伎の舞台に立っているときも、いつもいつも互いに声を掛け合っていたのだ。
 だからこそ、互いに歌舞伎役者を諦めなかったのだ。
 だからこそ、歌舞伎役者を目指して、稽古に励んだあの頃の時間が喜びの思い出なのだ。

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