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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2018年11月

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第176回2018/11/29 朝日新聞

 洋一郎の父の人物像としては、尾崎放哉の句を愛好する読書好きの人であった。それは、和泉台文庫での「カロリーヌおじいちゃん」の呼び名や、自分史作りの夢に通じる。ところが、神田さんの話からは釣り好きの面が出て来た。読書と釣りが趣味という人は珍しくない。しかし、神田さんの釣りにかける情熱は、趣味の域を超えている。その神田さんと、父がとことん話が合うということは、父の釣りへの情熱も相当なものだったと感じる。
 本が好きで、旅も好きで、釣りは仕事よりも大切、そんな人物像が浮かぶ。さて、ギャンブルはどうなったのか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第175回2018/11/28 朝日新聞

 カーネーションの疑問173回感想が解けた。神田さんは、いかにも仕事一筋、しかもサラリーマンなどとは違う仕事の感覚の持ち主だ。その神田さんが、よき仲間としていたノブさん(洋一郎の父)もまた、仕事に関しては職人気質というか、一匹オオカミのプロだったのだろう。
 西条さんは、洋一郎の父の自分史をあきらめていない。仕事ではなく、神田さんと西条さんによる、父の自分史作りが始まりそうだ。洋一郎は、それに付き合わないわけにはいかなくなるのではないか。

 多摩ハーヴェストに新しく入る後藤さんのこと、洋一郎の母に何か変化があったらしいこと、この二つが棚上げになっている。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第174回2018/11/27 朝日新聞

 コワモテで、不機嫌そうだ。でも、悪人でも不機嫌なわけでもない。仕事上の昔の仲間の死に線香をあげるためにわざわざ出向いてきている。そして、ノブさん(洋一郎の父、石井信也)の息子を前に笑顔を見せている。
 家族、親戚は、誰も父の死を悲しまないし、洋一郎を除きかかわろうとさえしない。
 大家(川端)さん、照雲寺(道明)和尚、和泉台文庫の田辺さん、自分史の編集者の西条さん、そして、トラックドライバーの神田弘之さんは、父の死を驚き、悲しんでいる。
 この対照がますますはっきりしてきた。
 これほどの違いが描かれていくのには何か、理由がありそうだ。
 
 初めて会った神田さんの言葉から、洋一郎の父のことがまた一つ明らかになってきた。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第173回2018/11/26 朝日新聞

 バスの中のバンダナの男は、神田さんだろう。 
 カーネションは、なんなんだろう?遺骨に供える花について知識も経験もないので、こうなったのだろうか?それとも、ノブさん(石井信也)との間にカーネションにかかわる思い出でもあるのだろうか?

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第172回2018/11/25 朝日新聞

 西条さんは、父(石井信也)の考え方に特別な興味を持ったと思っていたら、そうでもなさそうだ。家族の死の経験がなく、自分史の取材もはじめてなのだから、父の考え方が一般の考え方とは違うかどうかさえわからないと思う。これでは、父の遺骨に線香を上げたいという気持ちも故人への敬意などとは違うものだと思う。

父は相談会の日──人生を閉じてしまう二週間足らず前に、孫のような年恰好の西条さんと向き合って、説明を聞き、また自分の話を聞いてもらっていたのだ。もしかしたらそれが、若い人と言葉を交わした最後だったのかもしれない。(第169回)

 
父(石井信也)に関係のある人として、奇妙な人(西条さん)が登場したものだ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第171回2018/11/24 朝日新聞

 今まで、洋一郎の母について、得られている情報は僅かだ。
 別れた父については、顔も思い出せないのに、ベランダのこいのぼりのことや、タバコ屋での会話を洋一郎は覚えている。それなのに、母についての思い出はほとんど語られていない。その母がようやく登場した。登場した母に、何か事情が生じたらしい。母は、今は義理の息子と同居なので、その義理の息子との間に何か変化が出たのかもしれない。
 
 子どもが六十歳に近づき、親が高齢になると、親子間では困りごとが増えるのが現実だと思う。寿命が延び、親子が昔よりも長い時間を共有するのは、幸福なこととされていたはずなのに。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第170回2018/11/23 朝日新聞

 娘、美菜に洋一郎が文句を言われる筋合いがあるのか。
 でも今の家族はこうなるだろう。家族は、母親を中心として動き、父親は、家族の行事にはいない方が「グッドジョブ」となる。この方が、家族の間はうまくいく。
 うまくはいくが、自分が洋一郎のような父親の立場だけに、なんともやるせない気がする。
 
 別れたきりになっていて、その上、死んでしまった実の父のことは、さっさと片付けてしまった方がよかったのか。

 父にかかわると、やはり、厄介なことになってしまうのだろうか‥‥。

 その父は、一人で暮らしながら、妻と子のことを気にかけ続けていた。気にかけてはいたが、会おうとはしなかった。そして、自分の人生を自分史にまとめ、自分のことを知らない人がそれを読んでくれればいいと思っていた。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第169回2018/11/22 朝日新聞

 人との縁を感じる、といっても、古い世間的な常識でとらえているのではなかった。その意味で、私の疑問であった西条さんが古い考え方の人か?感想165回は解消した。

 「わたし、自分の家族で亡くなった人、まだ誰もいないんです。(略)」

 
西条さんは、古い考え方で洋一郎に迫っているわけではなく、逆に新しい家族関係の申し子のような存在だと感じる。西条さんの年齢になって、家族で死んだ人がいないというのは、核家族化と高齢化ゆえだ。
 そういえば、洋一郎の子ども二人は、祖父(洋一郎の義父)の死を、家族の死として感じていないのではないか。また、会ったことすらない祖父(洋一郎の実父)の死を、家族の死と感じることはまったくないと思う。

 これからは、一緒に暮らしている親子、夫婦の死だけが、家族の死ということになっていきそうだ。
 このままでは、年をとればとるほど、人は孤立せざるをえない。現に洋一郎は、ラインのグループでは妻や子からも切り離されている。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第168回2018/11/21 朝日新聞

 西条さんの反応は、予想できた。彼女がビジネスだけでなく、石井信也という人物に縁を感じていたことは、今までの西条さんの様子に描かれている。

 「このわたしを、選んでくださったんです」と言った。「こんなに深いご縁って、ありますか?」

 人と人に縁を感じる。たとえ、他人であっても縁があれば、それを大切にする、西条さんはそういう人なのだ。感想165回 
 血縁であっても、実の父との縁を拒絶していた洋一郎との違いがはっきりしてくる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第167回2018/11/20 朝日新聞

 これは、大変なことになってきた!
 父がトラックドライバーだったことがわかった。母も姉も知らなかったことであろう。 
 トラックドライバーのコンビだった神田さんが、父の死を悲しんでいる。もう、用事のないはずの西条真知子さんが、この話を聞いて、ますます興味をもった。
 洋一郎にとっては、まったく予期しなかったことであろう。
 さらに、神田さんと西条さんが、遺骨に線香をあげたいと言う。引き取りもしないで、寺に預けたままの遺骨へ、二人を案内したら、洋一郎が困ることになるのは、目に見えていると思う。

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