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新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 の感想と、読んだ本の感想を更新しています。

2018年12月

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第206回2018/12/30 朝日新聞

 後藤さんが起こした「大騒ぎ」の顛末を聞けば聞くほど、後藤さんは酒乱でもなければ、喧嘩ばやいわけでもない。ただ、「ずれまくって」いるだけだ。だとすると、後藤さんの息子は、なぜコネをつかってまで、父親を急いで施設に入れたのであろうか?
 後藤さんのことを解決するには、そこを明らかにしなければならないと思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第205回2018/12/29 朝日新聞

「後藤さん‥‥さっき食堂で大騒ぎだったんです」(201回)

 この本多くんの言葉が、この程度の騒ぎだとしたら、肩透かしをくった感じだ。こういう施設では、このような出来事も「大騒ぎ」のうちに入るということなのだろう。それとも、この後に後藤さんが本多くんに何か言ったのだろうか?
 今回の出来事では、後藤さんは酒癖が悪いという程度で、アル中でどうしようもなかったとか、酒に酔うと必ず人に迷惑をかけるという様子はない。むしろ、203回の挿絵の顔そのままで、ピントはずれているが、年齢にしては無邪気で気のいい人という感じがさえする。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第204回2018/12/28 朝日新聞

 後藤さんのことを次のように予想していた。
 若い頃はきつい力仕事をして、その仕事を引退してからは好き放題な荒れた生活していて、息子とは仲が悪かった。だが、息子が金を出すというので、しぶしぶ多摩ハーヴェストに入った。
 でも、そうではないようだ。

(略)後藤さんは、悪気なくピントのずれたことを言って、まわりの人たちの神経を逆撫でしてしまったのだ。

 そうだとすると、後藤さんに言動を改めてもらうのは、予想の場合よりもむずかしいと感じる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第203回2018/12/27 朝日新聞

 自力での生活ができなくなって、病院にもおいてもらえず、どうしようもなくて、老人ホームに入る。こういう場合を、考えると、どうしようもなくなる前に老人ホームなどに入っておく方が賢いような気がする。でも、佐山夫妻や後藤さんのように、まだ介護なしで生活できるうちに、老人ホームなどの高齢者施設に入るというのもむずかしいものだと、思わせられる。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第202回2018/12/26 朝日新聞

 介護サービス付きの共同住宅で暮らすのは、そこにしかないようなトラブルも付きまとうのだろう。
 自分で、人生最後の住まいとして、こういう施設を選んだ場合は、そこでの暮らしのトラブルやストレスを乗り越えることもできるだろうが、自分で望まない場合は、そうはいかないと思う。
 後藤さんの場合は、今までの様子から、自分で望んで多摩ハーヴェストに入居したとは思えない。望まないどころか、息子に無理やり入れられた、という推測さえできる。

 洋一郎は、後藤さんのようなタイプの人を上手に扱えると思えない。
 自分史の真知子さんやトラックドライバーの神田さんのように押しの強い人には、結局言いなりになってしまってきた。後藤さんも自分の言い分を変えないタイプの人だろう。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第201回2018/12/25 朝日新聞

 有料老人ホームでは、個室で、自分の思うままに時間を過ごせるし、食事、入浴、洗濯などに煩わされることもない。しかし、それは、一人暮らしで、食べたいときに食べ、酒も飲みたいときに飲む暮らしをしてきた人には、居心地が悪いのだ。
 後藤さんは、健康にはよくないが、自分の思うように飲み食いをする暮らしを続けてきたのだろう。あるいは、認知症というよりもアルコール依存症なのかもしれない。
 とにかく、後藤さんの息子が、自分の父の今までの生活を、急いでなんとかしないとならない状況にあったのだろう。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第200回2018/12/24 朝日新聞

 父と後藤さんの人生で、人生でというよりは、父と後藤さん、そして、拓郎が生きてきた日本の社会は、景気は右肩上がりで、子どもも多かった。今のように人口減少や、高齢者問題はなかった。
 洋一郎の世代は、かなり若い頃から、介護の仕事や有料老人ホームを身近に感じられる。
 しかし、後藤さんの若い頃は、人は年を取れば、家族に面倒をみられながら、自宅で一生を終えるのが多数派だった。だから、介護に携わる職業の内容を知るすべもなかったと思う。
 
 真知子さんの取材?で、父から、人に迷惑をかけたような要素が出て来ないとすると、不自然な気がする。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第199回2018/12/23 朝日新聞

 主人公洋一郎は、この小説では、さまざまな問題・課題の受け皿になる構成のようだ。
①一人息子を若くして喪った夫婦の老後のこと。
②別れて音信のなかった実の父の死にまつわること。
③高齢者介護の仕事が誤解されていること。
④親が離婚再婚した場合の子ども(一家)の墓のこと。
 いずれも、今の家族の姿の静かなきしみと悲鳴だと感じる。
 これらを、作者が考察し、作者の意見を展開するなら、『ひこばえ』は、幅の広い題材を取り上げる小説になると思う。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第回2018/12/22 朝日新聞

 後藤さんは、何のためにどんな施設に入ったか、ということを分かっていない。
 さらに、自分が今は違っていても、介護が必要になる年齢だということや、老いがどのように自分にふりかかってくるか、の意識がない。
 だから、高齢者の最晩年の棲み処である場所のことや、高齢者介護サービスの仕事についても無知なのだと思う。
 それに加えて、しっかりした共同生活の経験をもっていないのだから、これは厄介だ。

新聞連載小説『ひこばえ』重松清・作 川上和生・画 第197回2018/12/21 朝日新聞

 後藤さんの問題は、今までの生活の仕方のようだ。一人暮らしが長い高齢男性に、基本的な家事能力のない人は珍しくない。
 洋一郎の父、石井信也と後藤さんは対比的に描かれている。洋一郎の父のように、料理・洗濯・掃除がきちんとできる高齢男性の方が珍しい。それが、父が周囲の人たちから好かれた理由かもしれない。
 結婚していた頃の父は、家事についてはどうだったのか?洋一郎の母に聞いてみたい。

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