朝日新聞連載小説 『それから』 夏目漱石 第八回 4月10日分
「平岡」が話した、勤め先の銀行を辞めた経緯は、常識的に言うと同情すべきものなのでしょう。それどころか、親友であった「大助」なら「平岡」が受けた上司からの仕打ちに対して怒りを感じてもよいくらいです。
だが、「大助」は「平岡」に同情もしなければ、その反対の批判もしません。
ここに作者が創り出す主人公の特徴があるように思えます。
周囲の人々の心情と行動をよく分かっている。でも、自分と周囲の人々との間に何か乗り越えられないようなものを持ち続けている。そんな人物像が浮かびます。