朝日新聞連載小説 『それから』 夏目漱石 第九回 4月13日分  江戸時代の文学の中で、人間の精神の状態がどのように表されているかについてはよく分かりません。でも、私の乏しい知識の中では、昭和以降の小説の中でのものと大きく違うだろうと思っています。 彼の神経はかように陳腐な秘密を嗅(か)いで嬉しがるように退屈を感じてはいなかった。  「大助」の精神の状態の表現です。こういう文章は、現代でも目にします。文体を少し変えると現代の文章との違いは見つけられないと思います。というよりも、このような見方と書き表し方を超えることができていないのでしょう。  不運で不幸なことの続いた友人が打ち明けたことを、「かように陳腐な秘密」と表現しています。仕事上での苦しい人間関係と、親が子を失ったこととを、このように言い切っています。  これは、漱石の視点と考えてよいと思います。  江戸時代の武士が大事と考えていたものは、主従の関係のようです。また、庶民が大事と考えたのは、親子の関係と言われています。  政治も文化も大きく変わったのが、江戸から明治です。政治と文化の大変化は、人の精神へも影響を与えたのでしょう。  今までにさんざん言われてきたことでしょうが、漱石の視点は、江戸時代とは大きく違い、平成の現代とはあまり違っていないと感じました。  今も、「かように陳腐な秘密を嗅(か)いで嬉しがる」、言い換えれば、スキャンダルを暴く本がたくさん出ていることと比べても、漱石の思想の新しさを感じます。 クリックをお願いします。にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ