朝日新聞連載小説 『春に散る』第19回

 「広岡」は、旅先で2日目の朝を迎えました。観光名所と言ってもここでは、灯台くらいしかないようです。その灯台の階段を「広岡」は昇って行きます。

 どんな観光地でも名所という場所には、何か独特の雰囲気があります。そこは由来と歴史のある場所です。そして、由来と歴史だけでなく、いつも人目にさらされている場所です。
 観光客が多いときは、賑やかで華やかで、取り澄ました場所になります。観光客がいなくなると、急に雰囲気を変え、ホッとした古びた様子を取り戻すようです。
 私は、どちらかと言うと、人の少なくなったそういう場所が好きです。寂れていると言えば、そうですが、寂れた雰囲気もまたいいものです。

 「広岡」は、その灯台の階段で、誰にも会いませんでした。少し前まで大勢いた観光客は、一斉にそこを離れたようです。きっと、彼は人のいない灯台の最上階からメキシコ湾を見渡すことになるのでしょう。


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