朝日新聞連載小説『それから』第23回

 「代助」は、自分のことを次のように振り返っています。
三、四年前(ぜん)、平生(へいぜい)の自分が如何(いか)にして夢に入(い)るかという問題を解決しようと試みた事があった。
そのことを、追求して眠られない自分を、
つくづく自分は愚物(ぐぶつ)であると考えた。
とあります。

 根拠はなにもないのですが、私は主人公のこういう心理に、作者自身がよく反映されていると思います。漱石は、人間の意識と無意識の境目が、気になってしかたがなかったのではないでしょうか。さらに、解決しようのない問題から離れられない自分に対する意識が、はっきりとあるところにも漱石自身が反映されていると思います。

 私は、若いころは、他からは褒められたいという気持ちを持っていました。それは、褒められることがうれしいというよりは、褒められている自分を見たいという意識です。つまり、人に認められるようなことをしている自分を、自分で見ていたいのです。そして、この二つのことを、意識していたか、無意識だったかというと、未だによく分かりません。

 生と死、理想と現実、心理と行動、意識と無意識、常にこういう境目に興味を持ち、それを描ききる作品が時代を超えて、読み継がれるのだと思いました。

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