朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第29回
 「代助」は、兄と兄嫁が話したことを、珍しく楽しげに受け取っています。それは、自分のことを、「のらくらしているけれども実際偉い」と言っていると、甥の口を通して聞いたからでした。

 人から褒められるというのは、気持ちのよいものです。特に親しい人からであれば、尚更でしょう。親兄弟間では、褒めるということはめったにないことです。また、めったにないだけでなく、心で思っていてもなかなか面と向かって口に出して言えないものです。
 兄と兄嫁が話していたことを、本人たちからではなく甥の口を通して聞く、という設定がうまいところです。

 これが、褒めるのではなく悪口であれば、全く逆の効果になります。私の経験からいうと、この逆の場合の方が世の中で多く見かけます。他人が、自分の悪口を言っていたと、第三者から聞く、これほど不愉快なものはそうはありません。

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