朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第31回
 この回の「代助」が自己についての考えるところを読み、私自身のことで、次のようなことを思いました。

 自分のことを価値のある人間だと思ってきました。そして、自分のよい所を他人から認められるように努力をしてきました。それは、20歳代の頃も現在も変わりはしません。
 ただし、若い頃に比べると、そういう気持ちにも変化はあります。
 自分の価値を、世の中の人と比べて特殊なものであるとか、格段に優れているというようには思わなくなりました。
 また、他人から認められたいということも少なくなりました。
 自分でそのように考えたというよりは、それが現実だったというのが正確なのでしょう。
 私がこんな風に考えるようになったのは、中年以降でした。
 
 「代助」は、人生経験を積んだ結果でなくて、「彼自身に特有な思索と観察の力によって」、小説の中の現在の境地に辿り着いています。
 そこに、社会的な地位と知識としての理想論だけを身につけているような人を、見抜く眼を感じます。