朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第48回
 「広岡」は、不動産屋でまったく信用されません。店主が次のように言いました。
「ひとり暮らしの老人は、特にしっかりした保証人がいないと、どこの大家も貸したがらなくてね。それでなくても、寝こまれたり、死なれたりして、面倒なことになるんでね。」
 
 今の日本の社会を実によく表しています。これは、フィクションではなく、現実です。
 そして、私自身も、今の条件がいくつか変化すれば、たちまち「ひとり暮らしの老人」とみなされると思いました。