朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第37回
 「代助」は、はっきりしない性格を与えられていると思います。考えが先回りばかりして、さっぱり行動に移しません。
 ところが、なんとも豊かな才能を与えられた人物です。英語を楽に話すことが出来ます。書物は内外のものを問わず、深く理解できます。絵画、美術にも知識があり、そのうえ、ピアノを易々と弾きます。家柄に恵まれ、食べていくのになんの苦労もない境遇です。
 だが、父親や兄から望まれるようなこと、つまり、家柄にふさわしい職に就いて持っている才能を発揮するようなことは一切しません。

 当時の日本で、働くにふさわしい環境にある男性に求められていたことは、家族のため、社会のため、国のために、懸命に働くことなのでしょう。そして、当時の日本の指導者層が目指していたことは、産業を発展させて、欧米列強に負けないような国家をつくることだったのでしょう。
 そのような当時の日本の読者は、「代助」を、どう受けとっていたのでしょうか。気にかかります。