朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第52回
 レストランバーのウェイトレス、空港の受付カウンターの女性、ホールの窓口の女性、不動産屋の女性事務員、彼女たちと主人公とのやりとりが、小説のあちこちに出てきます。そして、日常の何気ない会話が交わされていました。
 この回では、不動産屋の女性事務員が、「広岡」にいろいろと問いかけていました。
 こういうやりとり、何気ない会話は、日常にありそうで、実はないような気がします。というよりは、最近どんどんなくなっているのかもしれません。だって、以前は、近所の郵便局や銀行では、なんとなく窓口の方と顔見知りになったのに、今はATMの方が利用が多いのですから。

 人間関係や感情に左右されることの少ない「広岡」の気持ちや行動に、潤いをもたらす効果を、このような場面が与えていると思います。