『オモニ』 姜尚中
 食えなくて、困ったことはありません。お金がなくて困ったことはありますが、食う物もなくなったという経験をしたことはありません。私の周囲でも、めったにそういう実際を目にしません。

 この小説では、食うことに困り続けた生活が描かれています。食うために働き続けた家族が描かれています。そして、それは小説の中ではあるが、過去の現実を伝えていると思います。
 事実に基づいた記録とされる資料は、必ず分析と解釈が必要なのだと最近痛感します。
 「小説」は、どこまでいっても、「小説」ですが、そこから事実を読み取ることはできると考えるようになりました。『オモニ』には、私が生まれた前後の我が国の姿が描かれています。