朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第43回
手紙は古風な状箱の中にあった。
 「代助」は、兄嫁の趣味を知っていて、手紙を開けてみなくとも誰から来たものであるのかが分かってしまいます。その人の個性は、使う物の中に表れることを細かく観察し、普段から人の趣味がよく見えてしまうのでしょう。これは、主人公のことというよりも、作者の感じ方が表れているような気がします。

坂を上って伝通院の横へ出ると、細く高い烟突が寺と寺の間から、汚い烟を、雲の多い空に吐いていた。
 情景を描いていますが、その時の主人公の気持ちとつながっていると感じます。
 現代のコンクリートで造られた建物に囲まれた街中でも、四季の変化を感じます。人の気持ちと天候や景色とのつながりは、簡単には変化しないのでしょう。
 そして、それを文章で表現できるというのは、すごいことだと感じます。
 私の勝手な感じ方ですが、このような表現に当時の日本の社会の様子も表されているような気がします。
 江戸時代からの町並みの中に、近代工業の工場が建っている。工場は盛んに操業している。しかし、そこから吐き出される烟は汚いものであるし、そんな町並みをおおう空は曇り空である。明治の社会が、そこに暮らす人々にとって、暮らしやすいものでなかったことを感じます。ブログランキング・にほんブログ村へ