朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第57回2015/6/22

けれども、顧みて自分を見ると、自分は人間中で、尤も歯痒がらせるように拵えられていた。
 私にとって、「代助」はまさにこの通りだと思ってしまう。豊かな才能があり、富裕な家に生まれて30歳にして働きもせずに一軒家を構えている。
 だが、羨ましい存在とも感じられない。「代助」が人間について考えていることも社会について分析していることも、明解で独特だと思う。だが、そこからどう行動していこうという進路が見えて来ない。その意味では、「代助」の行動そのものだ。だから、読者として「代助」の思考と行動を歯がゆく感じるし、親しみも湧かない。

 この回の「代助」が自身について感じていることは、漱石の苦しみの一部でもあるのだろう。
彼の頭は、彼の肉体と同じく確かであった。ただ始終論理に苦しめられていたのは事実である。
 漱石は、「代助」と違って、肉体の病にも苦しんでいたことが知られている。