朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第84回2015/6/25

「アリは世界最高のスポーツマンだった。いま、アリは体が不自由になっている。でも、逃げも隠れもしないで、その体をさらしながら生きている。」

 成果をあげたアスリートを最高のスポーツマンだと私は思ってしまう。だが、その成果と競技・試合の様子はマスコミを通じたものだけだ。注目を集めない種目と選手の存在は伝わって来ない。スターとスポーツマンとは違うのだ。スポーツのスター選手の全てが最高のスポーツマンではないことに気づかされた。
 逆に、世界チャンピオンになれずに終わった二人は、スポーツマンと呼ばれるにふさわしいと感じた。
 受刑者と面会の初老の二人は、過去に一気に戻って、スポーツマンとして話をしている。