朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第62回2015/6/29

 「代助」の実家から急の迎えが来たので、これは何事か起こったかと思っていたら、何もなかった。
 いつも暇な彼を呼び出して、芝居のお供をさせようというだけだった。

 資産家の生活は優雅なものだ。金持ちはいつも金儲けのために忙しくしているが、貴族や資産家は金銭だけでなく、時間と教養も持っているのだ。そして、こういう上流階級の人々は、どこか傲慢でアンニュイなのだろう。
 漱石は上流階級の出ではないようだ。このような「高等遊民」の生活ぶりを書くのはどんな意図があるのだろう。主人公が生活のためにあくせくするようでは、主人公の行動と心を表すことができないのかもしれない。