朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第66回2015/7/3

 「代助」はいよいよはっきりした態度を示さなくてはならなくなった。今までのように父や兄の話を、のらりくらりとやり過ごすことが難しくなった。
 それはそうだろう、という気がする。一生独身で働きもせずに、父の財産で暮らすことを許してもらえないのは当然だ。
 だから、「代助」も正面から自分の考えを言い張ることはできなくなって来た。そして、彼が考えたことは、そういう状況から一時的に逃げだそうと言うことのようだ。

また三千代の引力も恐れた。

 好きな女性に会いたいという欲求からも逃げようとしている。
 自分に都合が悪いことの全てから逃げることで、済むものだろうか。