朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第115回2015/7/27

 「広岡」と「佐瀬」は、二人とも若い頃の夢を実現できず、負け犬の気分を味わってきた。しかも、何度も敗者の立場に追い込まれた。そして、二人とも家族や周囲の人から孤立した生活を送っている。
 違いと言えば、「広岡」はボクサーを止めた後の仕事がうまくいって、現在は暮らしに困らない蓄えがあることだ。
 共通点の多い二人だが、現在の生きている実感は大きく違う。「広岡」の方は、深刻な病気に罹っていながら投げやりな気持ちにはなっていない。だが、「佐瀬」の方は違っていた。
 金があるかないかだけが、二人の違いの理由なのだろうか。