朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第119回2015/7/31

 年を取ると、新しいことに付いて行けず、過去の習慣から抜け出した思考ができなくなると言われる。物忘れが多くなり、五感が衰えるとも言われる。
 そのどれもが私にも当てはまる。
 しかし、老化が一番はっきりと現れるのは、体型の変化ではないか。たとえ、体重が変わらなくても、40年経てば体型は変化して当然だ。
 だが、「広岡」は違っていた。

だが、佐瀬は依然として驚きを含んだ声で言った。
「体型がほとんど変わっていない…」

 ここに「広岡」の本質がありそうだ。

 「気が若い」「若々しい心」と言う言葉があるが、信用できない。若く見える体型のままでいるのは、不自然だし、不可能だ。若い頃の体型を維持しつつ年を取れば、精神の若さを保つことができるのかもしれない。