『母 -オモニ-』姜尚中

 「オモニ」の生涯に、生物の要素を満たした人間の一生を感じた。
 この世に生を受け、独り立ちしてからは食べるために必死に働き、子を生み育て、やがて死を迎える。これは全ての生物に共通する営みの要素だ。
 「オモニ」の生涯にははっきりとその足跡が残っている。
 一方では、生物としての要素と共に、人間に固有の要素も明確だ。
 民族と国家を意識し、伝統的な信仰と慣習を支えとし、家族を中心にした共同体の維持に全力を傾ける。これは、人間固有の要素だ。

 二つの国家と戦争の時代を抜きにしては語ることのできない生涯だが、それ以上に生命力の強さと生命の誕生から死までの完結の見事さを感じた。

 私を含め、現代日本ではこういう力強さで生涯を終える人が少なくなったと思う。

 それは、何を意味しているのだろうか。