朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第94回2015/8/13

 「代助」の何かが変わってきている。今の所は何事も起きてはいない。だが、彼の決然とした様子が伝わって来る。
 今までの「代助」について考えてみると、精神と行動を二元的に捉えることが無意味に思える。
 表面では、彼は思索の人であって、行動は起こさないで生きているように描かれている。しかし、食うためだけの、儲けるためだけの行動をしないことは彼の思索の結果だ。また、世間の道徳と常識に則った行動をしないのは、彼の精神の具現だった。
 つまり、「代助」の行動と精神は、一致していたのだと思うようになった。
 
 その「代助」が、今まで以上に決然と行動を始めたと感じる。次々と決断し、迷うことなく行動している。だが、何かを画策しての動きではない。

彼はただ何時、何事にでも用意ありというだけであった。

 こういう「代助」に、以前は歯がゆさを感じた。しかし、今はそうは思わない。かえって、度量の広さと思考の深さを感じる。
 世渡りの上からは、追い込まれているのだろうが。