朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第133回2015/8/14

 この回では全く触れられていないが、真拳ジムの会長のことが気になる。どうやって、「広岡」が真拳ジムに入ることになったかは、明らかになっていない。だが、当時の「広岡」の境遇を考えたら、彼が相当に扱いの難しい若者であったことが想像できる。それは、四天王と呼ばれた他の3人も似たようなものだったろう。
 そんな血気盛んで、どこか屈折した気持ちをもっている若者に対して、ボクシングのトレーニングだけでなく、本と映画を勧める会長は、どんな人物だったのだろうか。
 ボクシングの技術を教えるだけの人でなかった。また、ボクシングで有名になろうとか儲けようとする人ではなかった。そういうことが想像できる。そして、その娘「令子」のこともやはり気になる。

 「佳菜子」の頼み事が映画とは、全く意外だった。若い女性からのデートの誘いとも取れるが、それだけではどうもしっくり来ない。彼女の過去と映画と「広岡」は、どう絡んでくるのだろうか。