朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第137回2015/8/19

 これ、と決めたことは最後までやり抜く。「広岡」はそういう人間だ。だが、その決めたことをどうしても諦めなければならない事情を一度ならず経験してきた。
 一方では、諦めると未練を残さない人間なのだろう。
 ボクシング仲間の中心だったが、一度日本を離れると、昔の仲間と連絡すら取っていない。野球とボクシングに関係する仕事や人付き合いを断ち切った。ボクシングを諦めてから始めたアメリカでのビジネスとも縁を切って、今日本に居る。
 一つのことをやり抜く部分と、手を引いたらそこに未練を残さない部分はどこかでつながるのだろうか。

 アメリカを立つ前に偶然テレビで見たボクシングの試合のことが、ここにきてつながるかもしれない。