朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第142回2015/8/24

 もし、若い頃の「広岡」が「令子」をレストランに誘っていたら。もし、もっと前に日本に帰って来て、真拳ジムのトレーナーになっていたら。もし、世界チャンピオンになっていたら。

 あの時にこうしていたら、と思うことは、誰の人生にもあるのだろう。ただ、振り返った時に、当人がどう思うかは十人十色だ。

 あの時に、ああしていればよかったと後悔することは、「広岡」には決してないと思う。