朝日新聞連載小説『それから』夏目漱石第101回2015/8/25

自分の所為に対しては、如何に面目なくっても、徳義上の責任を負うのが当然だとすれば

 「代助」は、ここまできても煮え切らない。「父」に対しては、断固として自分の意思を通したのに、「平岡」に対しては「徳義上の責任」を持ち出している。
 友人の妻を奪うという道徳に反する行為はするが、その行為を隠れてするのは、「徳義上」したくないというのである。
 コソコソしたくないというのは分かる気もするが、すっきりとは理解できない。


もう二、三日うちには最後の解決ができると思って

 「最後の解決」とは、どんなことだろうか。
 「平岡」が二人のことを認めると考えるほど楽観的ではないはずだ。「平岡」が怒って、「三千代」を離縁し、「代助」と絶交するというストーリーも考えられる。だが、それだけで済むだろうか。
 現代なら、法的な争いや慰謝料ということになる。