朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第145回2015/8/27   

 「広岡」のアメリカでの仕事がホテルの業界だったというのを忘れていた。確か、「佳菜子」との会話の中で一度出てきたような気がする。
 ホテル業は、24時間営業だし、見かけによらず重労働で、常に客の要求と不満にさらされる仕事だと聞いたことがある。
 心臓病を抱えた元ボクサーが、アメリカでホテルの客室担当や厨房担当をやるのは、どれだけ過酷なことだったか想像がつく。そして、今の「広岡」の経済状態を見ると、ホテル経営というところまで這い上がったのかもしれない。
 競争の激しい業界で、経験のない中、言葉の壁も乗り越えて、生き抜いてきたのだろう。

 そうだとすると、彼のアメリカでの生活ぶりと、帰国してからの質素な様子はどこから来るのだろう。