朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第149回2015/8/31

  私が独りで生活するとなると、一番途方にくれそうなのは毎日の食事だろう。
 入院手術後は、出かけることが少なくなったので、掃除、洗濯、炊事は以前よりはずっとやるようになった。だが、まだ妻の手伝いの域を出ない。

 老境に入った男ばかりが共同生活をする場合は、家事分担や金銭管理や公的な諸手続きなどが大仕事になるだろう。
 「広岡」本人の場合も、「佳菜子」と「令子」がいなければ、一室を借りることもできなかったはずだ。