朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第164回2015/9/16

 昔の仲間が困っていて、助けてほしいと思っている。だが、その気持ちを素直に言葉にすることができない。こちらは、相手のその気持ちが分かってしまう。そんな時どうするか。「広岡」のように、相手の気持ちの中までは深入りしないという選択もある。

もしかしたら、言葉とは裏腹の、異なる思いがあるのかもしれなかった。だがそれを斟酌しすぎるのはやめようと広岡は思った。

 一方では、相手の言葉の裏を読み取り、積極的に助ける選択もある。その方が、困った状況に具体的な手を差し伸べることになる。そういう場合もあるだろう。