朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第166回2015/9/18

 肩を壊していたのに、ボクシング選手として活躍したことに疑問をもたなかったが、そういうことだったのか。
 スポーツの種目によって使う筋肉に違いがあるということは聞いていた。それにしても「広岡」がボクシングを始めるまでの経過はいかにも彼らしい。けんかの相手(ボクサー)から、ジムを勧められたというのなら平凡だが、「広岡」は自分で考え、自分で試している。
 この時に、「広岡」を殴った相手は、「星」のようだが、次回には分かるだろう。

そして、最後に、部屋が微かに揺れるようなパンチを叩き込んでみた。

 いかに安普請の建物であろうと、拳を痛めることもなく、こんなパンチを叩き込めるなんて、やはり只者ではなかった。