朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第172回2015/9/24

「どうしてボクシングをやろうと思ったんですか」

 喧嘩を売った相手にあまりにも見事に殴られたから、とは言いづらいだろう。でも、話の流れで、そのことも正直に言うかもしれない。
 
 ところで、最近の日本でのボクシングの人気はどうなのか。人気が高いとは言えないようだ。テレビでの取り上げられ方を見ていると、話題性のあるファイティングタイプの新人ボクサーでも出てこない限りは、人気が戻りそうもない。
 この小説も、元ボクサーではなくて、元野球選手の物語だったら、もっと広い読者の興味をひくだろう。
 でも、きっとその設定では出てこない味があるはずだ。