朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第5回2015/9/25

 この回で描かれている宗助の休日の行動は、当時としては相当に新しいものだったのかもしれない。
 本屋を覗き、時計店に入り、西洋小間物などを物色しているが、どれも買わずにブラブラと歩いている。最後に安価なおもちゃを買って帰るところなどは、最近のテレビの街歩き番組を思い出しさえする。
 大人の男が、こういう感覚で街中をブラブラするというのは、私の感覚ではなんの違和感もないし、実際にやってきた。だが、宗助は明治時代の人間だし、私は昭和時代の人間だ。
 平成時代の大人の男には、こういう感覚はないのかもしれない。

 流通や販売の形態の変化は、人の行動や感覚に影響を与える。
 本屋の次に時計屋へ行き、別の店も覗いてみるという行動は、歩くという時間の流れに沿って、物事をとらえていく。
 一方、現代のショッピングモールに入って、そこの本屋、時計屋、別の店を回る行動は、歩き回るというよりは目的の場所に次々に移動するという時間の中で、物事をとらえていく。
 そこには、商品の販売形態の違いだけでなく、人の行動と思考にも違いが出てくるであろう。