朝日新聞連載小説『春に散る』沢木耕太郎第177回2015/9/29

 前回の私の予想は外れた。

こうしてジャックは試合に負けることによってめでたく五万ドルの賭けに勝つことになるのだ。

 試合の途中で、相手を倒せる戦略を見つけ、それを実行して勝つ。しかも、その戦略は、自分に大きなダメージを与えた相手のやり口に学んだものだった。
 実力が拮抗した者同士のボクシングの試合は、カウンターパンチのように、勝敗が紙一重で決まる。そこに、醍醐味もある。
 ジャックのやったことは、賭け金のための八百長と反則を抜きにすれば、ボクシングの最高の戦い方と共通していると、私は感じた。
 もう一つ思ったことがある。ジャックは、反則負けだ。しかし、ジャックのうちでは、相手の反則負けを見事に封じて、掛け金を手に入れたのだから、勝者になる。
 勝負には、表面的な勝敗と、内実の勝敗があると感じた。

 広岡は、どんな感想を書くのだろうか。