朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第8回2015/9/30

 伊藤公暗殺事件は、当時としては大事件であったはずだ。漱石は、取材をしたり解説をする立場にはなかったろうが、これほどの大事件なので、無関心でいられるはずがない。

 宗助は、この事件に関心はもっているが、興奮する様子も自分なりの意見をもつこともない。それどころか、まるで歴史上のことのように、客観的にとらえている。
 いくら小説の中の人物とはいえ、同時代の大事件にこれほど冷淡な態度をとれるのは特別なことだと思う。
 ここには、口ではいろいろに言っても、国の指導者のことは所詮は他人事だという庶民の感覚が描かれていると思う。
 それと、同時に新聞報道されている事は、事件の真相の一部に過ぎないことを、宗助は知っていると思う。
 そして、宗助のこういう態度は、作者のものであるのだろう。