朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第22回2015/10/23

 宗助にしてみれば、弟から激しく責任を追及されたのと同じであろう。普通なら、兄として弟を心配しているのに、その自分を差し置いて、安之助に頼み込むなぞはもってのほかと怒るところだ。
 ところが、これだけ弟の小六から自分が軽く見られているのに、腹を立てるどころか、弟の心意気に感心している。
 面子などに拘らない人でも、あからさまに実の弟から、兄はあてにならないと思われれば、腹を立てる。実際に弟のために、何もしてやることができなくとも、こういう行動を弟にとられれば、やはり怒ると思う。それをしない宗助に、私は感心した。