朝日新聞連載小説『門』夏目漱石第23回2015/10/26

 夫婦には、生活を共にする人間同士としての能力が必要だ。それは、恋愛関係に必要とされる人間同士の能力とは違うものだろう。違うというか、恋愛関係が成立した人間同士に、さらに付加されることを求められる能力だろう。
 夫婦は、衣食住にかかわる問題を共に解決していくことが必要だ。例えば、二人分の衣服を購入し、洗濯し、適宜に着替えて、快適に生活できなければならない。それを、一人でやるよりも、二人でやった方が効率的で、しかも快適なものにできる。そんな実生活上の力が必要だ。
 昭和時代の夫婦であれば、購入のための金を稼ぐのは、専ら夫で、洗濯や整理は妻という分担が一般的だった。しかし、働き方と家族の構成が変化した今は、過去の分担は通用しなくなっている。

 宗助と御米は、明治時代にもかかわらず、非常に合理的な役割分担をしていると思う。稼ぐのは夫で、家計のやりくりは、妻というのははっきりとしている。しかし、御米は、夫の気持ちをとらえ、小六の世話をできる範囲でする方法を宗助に提案している。
 宗助は、御米の話をよく聞き、御米の意見に従っている。
 弟を援助したいが、無理なことはしないというこの夫婦の生き方は、非常に近代的だし、現代でも現実的だと感じた。

 静かで地味に暮らしているこの夫婦に、なんともいえない味わいを感じる。